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アサヒグループHD勝木社長は、オーストラリアで「スーパードライ」の売り上げをいかにして5倍にしたのか海外戦略でらつ腕(1/2 ページ)

» 2022年02月10日 05時00分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]

 人口が減少し国内市場の伸びが期待できない中で、国内よりも海外市場に大きく舵を切ったアサヒグループホールディングス。

 前編【アサヒグループHD勝木敦志社長「DXを通じて新たなビジネスモデルを作る」 製造工場のリモート操作化を促進】では「DXを通じて新たなビジネスモデルを作る」と語る勝木敦志社長に、製造工場のリモート操作化を促進する取り組みなどをお届けした。

アサヒグループホールディングス本社(以下社長の撮影:山崎裕一)

 後編ではオーストラリアでの赴任当時、企業買収をテコにして「スーパードライ」の売り上げを5倍に躍進させ、日本、オーストラリア、欧州の3極を軸に海外を重視した経営戦略を展開する勝木社長に、その狙いと勝算を聞いた。

勝木敦志(かつき・あつし)1960年生まれ。84年にニッカウヰスキーに入社、2002年にアサヒビールに転籍、06年に国際経営企画部長、11年に企業提携部門ゼネラルマネジャー、14年にAsahi Holdings (Australia) Pty Ltd, Group CEO、17年にアサヒグループホールディングス取締役兼執行役員、20年に専務、21年3月から社長兼CEO。北海道出身。61歳

海外の売上収益が4割以上

――2021年度の第三四半期までの決算を見ますと、海外の売上収益が全体の約4割以上、事業利益が約6割以上を占めるなど高くなっています。今後とも海外重視の路線を取るのでしょうか。

 作年大幅に国際事業が増えたのは、20年6月に約1兆1400億円で買収したオーストラリアのビール最大手「カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)」がフルで寄与しているためです。

豪州の現地ブランドVictoria Bitter

 特にオーストラリアと欧州が大きいですが、コロナ禍からの回復基調にあることもあり、今後とも海外が伸びると確信しています。海外比率の目標数字は持っていませんが、国内の生産年齢人口が減少しているので、大きな事業の収益は国内では期待できないと思います。もちろん国内においても付加価値を高め利益を高める活動をしていきますが、成長の中心は海外になるのは否めない。

豪州の現地ブランドGreat Northern

――オーストラリアではどのようにして日本の「スーパードライ」の売り込みを成功させたのですか。

 2011年から17年まで5年半ほど駐在する間に、「スーパードライ」の売り上げを5倍にしました。その結果、輸入ビールの1位のブランドは(メキシコ産の)「コロナ」ですが、「スーパードライ」が2位に躍進しました。

 11年以前は、アジア系レストランなどでの取り扱いが多く、そこでは価格の安いビールが求められプレミアム感が出しにくかったので、これではだめだと思いました。そこでパブやバーで「スーパードライ」をプレミアムとして展開すると、見事にその戦略が当たりました。

 価格については高い水準をキープできるように歯を食いしばって頑張りました。この結果、現地ではスタイリッシュでハイエンドなチャンピオンビールとして定着していきました。金融機関の集まる中心街のお店に出したところ、「価格の高いプレミアムを飲むのが格好良い」というイメージになり、お店も利益率が高いので、良く出るようになりました。

 人と違うビールを飲むのが格好良いというポジショニングを築くのが大事でした。バーベキューをするときに「スーパードライ」を抱えて持ってくると格好が良いという感じになりました。そのころは「クールジャパン」がブームのころで、時流にもはまりました。価格的にも一番高かったですが、よく飲まれました。

グローバルブランドとして展開するAsahi Super Dry

目をつぶって飛び降りるような買収ではなかった

――成功する際に乗り越えた最大の壁は何でしたか。

 すでに乗り越えた壁ではあるのですが、20年に買収したCUBの壁は高かったです。州ごとに違いはありますが、独禁法があるので買収前には、CUBの製品だけにできないパブにはある程度「スーパードライ」は置いてもらえました。しかし、CUBの商品と比べると「スーパードライ」は小さいので、すぐに押し出されてしまい賽の河原の状態でした。

 CUBは非常に利益率が高く、常にまぶしい存在でしたので、買収のチャンスがあった時は、これを逃す手はないと思い、買収に踏み切りました。買収後はオーストラリアのパブの半分以上に「スーパードライ」が自動的に入るようになり数量が伸びました。

――買収リスクはどの程度感じていましたか。

 リスクが小さいとは言いませんが、ビール事業は日銭が入るので比較的安定的で、大きく落ち込むことはありません。前年比で倍ほど伸びるサプライズはありませんが、ある程度は増えます。このため、買収を決めるに際して勇気は要りましたが、目をつぶって飛び降りるような買収ではなかったと思います。

――もう一つの柱である欧州での展開はどのように進めていますか。

 英国では早くから「スーパードライ」を展開していて、なかなか売り上げが伸びなかったのですが、このところ2桁で伸びています。欧州のビール事業では、16年に買収したイタリアのプレミアムビールの「Peroni Nastro Azzurro(ペローニ ナストロ アズーロ)」が、スタイリッシュなビールとして英国で受けています。欧州人はイタリアのおしゃれに対してどこか憧れ感があるようです。

 欧州で本格的に「スーパードライ」を展開しているのは、英国とルーマニアです。ドイツとフランスはこれからで、フランスではパリにアドボカシー(伝道師)を置いてブランドの浸透を図ろうとしています。「スーパードライ」は世界の大都市で販売したいという戦略があり、これに沿った形で普及を図っていきたいと考えています。

 ロンドンではパブで「スーパードライ」を探すのには苦労しないほどにまで普及してきています。昨年から「Discover Tokyo」というグローバルキャンペーンを実施しているので、クールな世界観を訴えていきたと思っています。

グローバルブランドとして展開するPeroni Nastro Azzurro
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