コロナ禍が続いて、外食需要が激減したビール業界。新しい環境の中で高度成長期にもてはやされた大量消費、大量販売のビジネスモデルから決別する必要性に迫られている。
微アルコール市場の開拓など、新しい価値の創造に意欲を燃やそうとしているアサヒグループホールディングスの勝木敦志社長にインタビューした。
勝木敦志(かつき・あつし)1960年生まれ。84年にニッカウヰスキーに入社、2002年にアサヒビールに転籍、06年に国際経営企画部長、11年に企業提携部門ゼネラルマネジャー、14年にAsahi Holdings (Australia) Pty Ltd, Group CEO、17年にアサヒグループホールディングス取締役兼執行役員、20年に専務、21年3月から社長兼CEO。北海道出身。61歳――新しい価値を創造するValue Creation室を20年4月に創設した狙いは。
データは経営の意思決定をする上で重要な材料の一つです。さらにDXを通じて新たなビジネスモデルを作っていかなければなりません。そうした中で、アサヒグループホールディングスはDX戦略を進化、昇華させていかねなければならないとの思いからValue Creation室を作りました。
新しいデジタル技術やデータの活用を通じて飲食について新しい価値を生み出し、デジタルを活用した飲食の新しいビジネスモデルを作るのが創設の目的の一つです。
――そのために社内でデータアナリストを募集したそうですが。
企業内の“Valueを造る人材”を増やす教育プログラム 「Value Creation人材育成プログラム」として、データアナリストなどの育成を目指し社内で募集しました。すると当初に想定した約200人を大きく超えてアサヒグループで536人もの手が上がりました。
予想した人数よりかなり多くなりましたが、希望者全員でやってみようとなり、いまそのプログラムを実行しているところです。若手を中心に全ての世代から応募があり、変化、改革、デジタライゼーションへの社員の渇望がすごいと思いました。
理系、文系といった属性に関係なく、本人の意欲、前向きな気持ちが成果につながっている実感があるので、やりたい社員にはデータアナリストとして活躍してもらいたいと思います。いまは社内外の講師を招いてケーススタディーなどの訓練をしています。
――データ分析に力を入れようとした理由、背景は何ですか。
ビジネスとデータは切り離せない、データ分析は欠かせないものになっているからです。これまでのマーケティングでは、グループインタビューなどで定性調査をすれば市場の動向を理解したと思っていました。これからはそれに加え、AIを活用してお客さまのデータを集めて分析し、顧客の次の行動を予測することまでが求められる世界になってきています。アサヒグループの事業会社各社が個別に持っていたデータを統合して、利活用していきたいと思います。
訓練を受けた社員全員がアナリストになるわけではないですが、データをもとに仕事をすることを身につけた社員が各事業会社に数百人いれば、商品が成功する確率が高まり心強いと思っています。
――ビールの製造工場の遠隔(リモート)操作化を進めようとされているようですが、その狙いは何ですか。
現在、国内8つのビール工場では、水や電気などを使用しているユーティリティー設備を24時間監視しています。この監視・操作業務を遠隔でできないか実験をしている段階です。
絶対に品質に間違いがあってはならないので、十分な実験、検証をしなければなりません。最終的には23年ころに順次、遠隔監視を開始し、国内では25年の完成を目指しています。
海外のオーストラリアでは、インターネット環境さえあれば、ビールの醸造過程を社員の自宅でモニターでき、すでに運用段階に入っています。温度管理など全てができます。
オーストラリアは人件費が高いのですが、人件費の削減だけが目的で導入されたのではありません。遠隔監視ができるようになれば、浮いた時間を使って品質向上に取り組むなどクリエイティブな仕事をしてもらえます。
最終的には1人で国内8工場全ての監視ができるようになります。移動の時間も節約でき、クリエイティブな仕事ができるメリットは大きいと思います。
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