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アサヒグループHD勝木敦志社長「DXを通じて新たなビジネスモデルを作る」 製造工場のリモート操作化を促進外食需要が激減したビール業界(2/2 ページ)

» 2022年02月09日 05時00分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]
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DXに取り組む経営的な狙い

――アサヒグループHDは東京証券取引所と経産省が選んだDX銘柄2021に選ばれました。DXに取り組む狙いは何でしょうか。

 米国の経営学者のクレイトン・クリステンセンが破壊的イノベーション理論を書いた『イノベーションのジレンマ』で述べているように、イノベーションには、フィロソフィー、プロセス、ピープルの3つの要素があります。

 私たちのグループ理念であるAsahi Group Philosophyでは、「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」をミッションとしています。これはDXと相性が良いと思っています。飲食をコアにして新価値創造を目指す取り組みではDXを多いに活用できると考えているからです。

 プロセスについて当社は長年、多様なイノベーションに取り組んできました。DXをビジネス・トランスフォーメーションの領域まで進化させています。ピープルは当社の強みであり、さらなる強みにしていきたいと考えています。536人の「Value Creation人材」を育てる、といったようにこれからも人材投資をしていきます。

 DXは人員削減のツールとしてではなく、“Value Creation人材”のような社員に活躍して付加価値の高い仕事をしてもらい、より高い存在になってもらう狙いがあります。これは自慢できる取り組みだと思っています。

 働き方についても、国内55カ所ある営業拠点を26カ所に集約し、出社を前提としないリモートワークができるようにしています。これはコロナ禍が終息しても変わりません。

ストロングチューハイの積極的な展開は考えていない

――ビールの国内シェアが数年前までは首位だったのが、2020年あたりからライバル会社に負けているようですね。国内の取り組みは今後どうする考えですか。

 従来型の大量生産、大量販売のビジネスモデルが、人口動態の変化や消費の多様化により通用しなくなったので、そうした変化に対応しようとしています。このため今まで公表していたビールの売上数量の発表をやめました。

 代わりにアサヒビールとして追求しているのがバリュー経営です。価値を向上させて利益をどう出すかで、具体的には商品のプレミアム化とプロダクトミックス、チャンネルミックスなどのミックス(比率)の改善です。こうしたことにより、規模を追うのではなく、新しい価値を生み出したいと思います。

――新しい価値の創造は、具体的な商品にどう結びついているのでしょうか。

 20年に、お酒を飲む人も飲まない人も互いが尊重し合える社会の実現を目指す「スマートドリンキング」を宣言し、ビール類、RTD、ノンアルコールの販売容量合計に占めるアルコール度数3.5%以下のアルコール商品、ノンアルコール商品の比率を25年までに20%になるよう追求しています。

 21年3月に出した微アルコール飲料の「ビアリー」は好調です。21年3月末から7月初旬の微アルコールを含むノンアルコール市場の売上高は前年比で20%伸びましたが、そのうち10ポイントは「ビアリー」によるものです。ただ、この数字に満足はしていません。

 微アルコールは新しいカテゴリーなので、時間をかけて取り組んでいきます。ウイスキーのハイボールもアルコール度数0.5%と3%の商品を出しました。こうした商品で選択肢を増やし、アルコールの多様な楽しみ方を提案していきたいと思います。

――お酒テイストのノンアルコールは世界的な流行なのでしょうか。

 各国の流れになってきています。WHO(世界保健機関)もアルコールの有害な使用を減らす世界戦略の提言を2010年に出していて、近々提言に沿ったアクションプランが発せられるようです。当社もその考えに賛同し、アルコールの不適切な使用を撲滅していきたいと考えています。

 そうした中で、寄与するのがアサヒグループの「スマートドリンキング」です。現在、日本のノンアルコール市場は全体の4%ですが、欧州では10%の国もあります。

 アサヒグループのサステナビリティ戦略の中で、5つのマテリアリティーを標榜(ひょうぼう)していますが、その一つが責任ある飲酒です。その観点からもローアルコール・ノンアルコール商品を増やすことは社会的課題の解決にもつながります。アルコール度数の高いストロングチューハイの積極的な展開は考えていません。

微アルコール飲料の「ビアリー」

「スーパードライ」のユーザーは400万人増

――今後の国内ビール市場に対してどんな対策を取りますか。

 20年10月にビール酒税が下がり、23年にもう一段下がり、26年にはビール類の酒税が統一されます。これは一つの収益機会と捉えています。

 新しい価値の提案として、「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」を21年4月に発売したところ大変好評で、供給が追い付かなくなり販売を一時的に休止せざるを得なくなりました。 勇気付けられたのが、「スーパードライ」のユーザー数が20年まで1450万人だったのが、21年9月時点では1860万人と、約400万人も増えたことでした。

「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」

 「スーパードライ」のメインユーザー層が50〜60代と高齢化していたのに対して、「生ジョッキ缶」は20〜30代のユーザーの支持を得られました。SNSなどでも取り上げられたことでユーザーが広がるなど好循環となりました。増えた若いユーザー層を今後どのようにつなげるかが重要です。生ビールのおいしさを「生ジョッキ缶」で再確認してもらったのではないでしょうか。

 アサヒビールはこれまで国内ビール市場では「スーパードライの一本足打法」と揶揄(やゆ)される向きもあり、われわれも課題だと思ってきました。21年9月に「アサヒ生ビール(通称マルエフ)」を発売したら大ヒットしました。「スーパードライ」と比べて、優しく柔らかい味わいの商品がいまの殺伐とした世の中に受けて、これも供給が追い付かなくなり、2カ月間商品の供給ができなくなりました。

 21年11月には供給体制を強化して再発売し、好評を博しています。

「アサヒ生ビール」(通称:マルエフ)
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