大手商社の中で事業分野の見直しを含む構造改革を迫られていた住友商事。同社が、DXを活用してターンアラウンド(再生)を図ろうとしている。
経営戦略においてDXを中心に位置付け、成功と失敗事例を示すことによって社員に共感を持たせるなど、多様な施策を実行してDXを先導してきたメディア・デジタル事業部門長(CDO)の南部智一副社長にインタビューした。
――住友商事は経済産業省と東証が選んだ2020年度の「DX銘柄2020」に選定され、21年度は「DX注目企業」となりました。DXに取り組んだ理由は何だったのですか。
DX推進を始めて3年になります。当時はDXの重要性が唱えられ始めた頃で、気候変動対応による既存事業の見直し、収益性改善のためにも、事業ポートフォリオを組み替えなければならないと感じていました。
加えてデジタル領域のスタートアップが各産業で活躍しているのをみていると、「このまま従来モデルの維持では淘汰されてしまう」との思いも強まっていました。そこでDXを切り口にした会社の構造改革をしようという目的で取り組み始めたのです。
――具体的にはどんなところから始めましたか?
住友商事には6つの事業部門があり、いわば6気筒のエンジンを持っています。まず、DXを始めた当初の2018年は、各事業部門のDX的取り組みとIT知見のある人材の所属がばらばらだったので、一つの組織にまとめDXセンターを開設しました。
DXセンターでは、各事業部門の課題を洗い出して、現場の事業プロセスをビジネスサイドから分解する人と、デジタルサイドからソリューションを考える人を一緒のチームにしました。しかし、課題をデジタルで解決するにはまだ障壁があり、戦略を理解してソリューションをITで開発・メンテナンスを請け負ってくれるいわば「万能工務店」のようなプロが必要になりました。
そこで、当社のネットワークなど全てのシステムの開発・運営を担う情報システム会社のSCSKに協力してもらいました。同社には関連企業を入れて1万人規模のシステムインテグレーターがいて、当社との人事交流もしています。DXセンターを開設した当初の社員は10数人でしたが、今は150人ほどいて、個別プロジェクトを営業ラインと協働して忙しくなり、現在も増員中です。
DXセンターを開設したことで、現場の課題を見つけ、解決策を考え、ITシステムに落とし込むプロセスが一気通貫に、スムーズにできるようになりました。一方で、課題解決にあたって、データ分析を用いた意思決定を可能にする、AIに精通した人材が必要になりました。そこで19年にAIのサイエンティスト、エンジニアを集めた技術専門会社インサイト・エッジ(東京都千代田区)を設立しました。
また、B2Cの世界ではデータを活用してマーケティングとブランディングをしますが、「これならこういった分析を実施して、このデジタル媒体が良いですよ」など、ニーズに合わせて提案できる人材も必要です。そこで活躍しているのが、SNSやインターネット広告からデジタルマーケティングのコンサルなどデジタルメディア事業に取り組むSCデジタルメディア(東京都渋谷区)です。
このDX活動の「主人公」はあくまでも6つの事業部門のビジネスラインですが、デジタルでビジネス課題を解決するという組織横断的・包括的に取り組んだことが、経産省などに評価いただいたのではないかと思います。
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