「バレンタインのチョコ、くれるよね?」 メッセージだけの“触らないセクハラ”、法的には?法律事務所ZeLoに聞く!ハラスメントQ&A(3/3 ページ)

» 2022年02月28日 07時30分 公開
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「バレンタインチョコ、くれるよね?」はセクハラか

 バレンタインの時期にチョコレートを催促することは、それがしつこいとしても社会的に許容される限度を当然に超える行為とはいえず、この行為が独立した不法行為とは評価されなかった裁判例があります(東京地裁平成30年1月16日判決)。

 ただし、この裁判例では、女性の脇や臀部を指でつつくなどの行為がされており、セクハラ行為・慰謝料請求自体は認められています。

東京地裁平成30年1月16日判決より

独立の不法行為として評価するまではしなかったその余の行為をも加え考慮しても、被告は、こういったセクハラ行為を長期間かつかなりの頻度で繰り返し、その都度原告から強い言葉で叱責され、拒絶されていたにもかかわらず、これを繰り返していたものである。こういった事情からすれば、本件不法行為の中にはそれ自体の程度としては軽微なものも少なくないものの、総じて評価すれば、被告の原告に対するいわゆるセクハラを中心とする本件不法行為は態様においても悪質なものであり、原告の被害の程度は大きいと見るのが相当である。

(筆者により一部を引用・加工)

 このように、上記裁判例では、バレンタインのチョコレートを求める発言は独立した不法行為として認められませんでしたが、セクハラに該当するか否かは個別のケースごとに、当事者の職場における地位や関係性、性的な言動の具体的態様や反復・継続性、言動の意図・目的、当事者の対応などの事情を総合考慮して判断されます。

 今回のケースにおいても、この発言だけでは慰謝料請求の根拠となり得る独立の不法行為か否かを判別することは困難ですが、女性社員の対応やメッセージの頻度などの事情によっては、男性社員の言動がセクハラに該当し、慰謝料請求が認められる可能性は相応にあります。

「笑ってくれるし、関係性が良いから大丈夫」ではない

 セクハラの問題を考えるとき、「自分とあの人は良い関係を築けているからこの程度は言っても大丈夫」と思う方もいるかもしれません。しかしながら、発言をする側が、冗談を言い合ったりするような良好な関係を築けていると思っていても、言われた側は内心では不快に感じている場合もあります。今回のケースのような発言もトラブルになる可能性があることには留意すべきです。

 実際の裁判でも「被害者が内心では不快に思っているが、職場の人間関係の悪化などを懸念して表面上は友好的に振る舞うのは不自然なことではない」旨が認められたケースもあります。

大阪高裁平成26年3月28日判決より

内心では不快に感じながらも、自身の立場や職場の人間関係の悪化などを懸念して表面上はそれを示さないことは通常あり得ることであるから(そもそもセクハラとは相手のそのような心理につけこむものであるのが一般的といえる)、被害者が加害者に直接抗議することがないばかりか、むしろ表面上は友好的に接するため、談笑したり、複数が参加する自身の送別会への出席を許したりする程度のことを甘受することは何ら不自然ではない。

(筆者により一部を引用・加工)

 職場では、仕事の関係や人間関係に配慮し、従業員は本心を言わない(言えない)場合もあるでしょう。そうした職場の関係性も考慮したうえで、不適切な言動は慎み、従業員が安心して働けるような職場環境を作っていくことが必要です。

発言のみではセクハラと認められなかった事例もあるが……

 実際の裁判例では、「今日も笑顔が素敵ですね」「若い女性と飲むとおいしいね」という発言が、セクハラに該当しないとされたケースが存在します(前者の発言は大阪地裁平成24年11月30日判決、後者は東京地裁平成12年4月14日判決)。

 しかしながら、前述した通り、セクハラに該当するかどうかはあくまでも個別ケースごとの判断になります。状況などが異なれば、このような発言でもセクハラに該当する可能性はあります。「このくらいの発言なら大丈夫」と思わず、言動には注意しましょう。

味香直希弁護士(法律事務所ZeLo・外国法共同事業)

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2010年京都大学法学部卒業、2012年京都大学法科大学院修了。2013年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、はばたき綜合法律事務所入所。2017年法律事務所ZeLoに参画。 2018年2月〜2020年1月金融庁証券取引等監視委員会出向。

弁護士としての主な取扱分野は、人事労務、ジェネラル・コーポレート、危機管理・コンプライアンス、倒産など。就業規則の策定等、企業の労務環境整備に多数関与するとともに、労働審判・団体交渉等、紛争対応にも従事。

高井正巳(法律事務所ZeLo・外国法共同事業)

2013年東北大学文学部卒業。同年、裁判所入所。スタートアップ企業の人事・総務部などを経て、2019年9月法律事務所ZeLoに参画。人事・労務分野のリサーチなどを中心に業務を行っており、日常的な労務相談やIPO支援、人事・労務に関する記事執筆などのサポートに取り組んでいる。

法律事務所ZeLo・外国法共同事業

2017年3月に設立された、企業法務専門の法律事務所。「From Zero to Legal Innovation」を掲げ、スタートアップから中小・上場企業まで、企業法務の幅広い領域でリーガルサービスを提供している。AIによる契約書レビュー支援ソフトウェアなどを開発する株式会社LegalForceと共に創業されており、リーガルテックやITツールを積極的に業務に取り入れ、企業の経営と事業の成長をサポートする。2020年に設立したZeLo FAS株式会社と連携し、M&Aやファイナンスなどにも強みを有する。

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