先日、ある会社の営業部のマネジャーから、こんな話を聞きました。
「部下のプライベートには一切関心を持たないようにしています。最近の若手社員はプライベートの時間を仕事と切り分けて大事にする傾向にあり、そこへ過度に踏み込むとハラスメントになってしまう可能性があるからです。マネジメントのリスクヘッジみたいなものですかね」
以前は飲み会や社員旅行など、仕事とプライベートの境界線があいまいな職場イベントが当たり前に行われていた時代もありました。昨今ではワークライフバランスの価値観が定着し、業務時間外での職場コミュニケーション機会は大きく減りつつあります。
この上司のように部下とのコミュニケーションを諦めてしまうまではいかなくても、部下のプライベートへの関わり方が難しいと感じている上司は多いのではないでしょうか。
上司と部下とのコミュニケーション機会の減少に加えて、テレワークを経験する社員が一気に増えたのが、コロナ禍による大きな変化です。同じオフィスで働く時間やリアルでのコミュニケーション機会は大きく減っています。
リクルートキャリアの調査では、約60%の人がテレワーク前にはないストレスを実感し、そのうち3人に2人は、いまだにストレスが解消できていないと答えています。そして、雑談の有無によって、ストレスの解消に大きく影響が出てきていることが分かりました。
コミュニケーション機会の減少により、社員のメンタル面への影響が出ているとともに、上司が「部下のプライベートに干渉しない」といっていられない状況も起こっているのではないでしょうか。
コミュニケーションの不全が進むと、社内の情報伝達のスピードや制度に影響が出てきます。仕事上のトラブルにつながるかもしれません。放置してしまうと、さらに社内の人間関係や組織風土の悪化にもつながってしまいます。
社員のエンゲージメントは低下し、離職率が高くなったり、メンタル疾患を抱える社員が増えたり、あるいは多くの組織問題が発生し、経営層や人事はその対処に追われることになるでしょう。
コミュニケーション不全を放置することは組織や事業を次第にむしばんでいきます。果たして、こうした課題を前にして、これからの時代に上司は部下のプライベートに関わらずマネジメントができるのでしょうか。
筆者は、これまで長年、人事領域に携わってきました。その中で、社員のプライベートな事情が仕事に大きく影響してしまった事例もいくつか目にしました。ここからは、そうした事例をケーススタディーとしながら、今後あるべき上司と部下の関係性を探っていきます。
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