筆者は、マネジメントで「プライベートに踏み込むのはご法度」という認識は間違いだと思っています。必要に応じて知る必要はあり、部下の情報が多いほど、マネジメントはやりやすくなります。
もちろん、過度にプライベートな部分に入り込みすぎると、部下を委縮させることになったり、時としてハラスメントにつながったりすることがあるかもしれません。しかし、問題に発展するようなケースには共通の特徴があり「上司が部下の気持ちを考えず、上司の興味本位で踏み込んでしまう」ことが原因になっていることがほとんどです。
では、どのようなポイントで部下とのコミュニケーションを図るべきなのでしょうか。
部下が問題を抱えているときには、必ず兆候が出ています。上司の役割は、その兆候を見逃さないように「観察する」ことにあります。そして、適切なコミュニケーションを取ることで、問題を解決できる可能性は高まります。
例えば、前述のケーススタディー(1)の場合、Bさんの残業時間が減っていたという兆候が表れていました。この兆候は勤怠管理データをしっかりと見ていれば読み取れたはずです。状況が確認できた時点でタイムリーに「最近残業が減っているね。何か変わったことがあったのかな?」とコミュニケーションを取っていたら、いきなり退職意思を突きつけられることはなかったかもしれません。
ケーススタディー(2)の場合は、部下Dさんが「自分のことを話さないタイプだから」と、上司がコミュニケーションを諦めてしまっていました。部下を観察し、コミュニケーションを取ることを上司側からやめてしまっているのです。これでは、問題の兆候すら見つけられなくなってしまいます。
そして、間違うといけないのは「観察することは管理することではない」ということです。人は、誰かに管理されていると感じたら、コミュニケーションを避けるようになります。部下に無用な意識をさせないように、そっと観察し、事実を基に適切なコミュニケーションを取ることが重要なのです。
筆者がマネジメント研修の講師を務める際、参加者に「上司と部下、どちらからコミュニケーションを取るべきか」と聞いてみると、多くの上司は「コミュニケーションは部下から取るもの」と答えます。これは、明らかに間違いです。
「報連相は部下からするもの」と、報連相をしない部下を叱る上司は多いのですが、ほとんどの部下は上司とコミュニケーションを取ることを苦手としています。自らコミュニケーションを積極的に取ることで、上司から小言を言われたり怒られたりするかもしれないと考えるからです。上司側から適切なコミュニケーションを取らなければ、正しい報連相はできません。
上司と部下のコミュニケーションを円滑に行うためには、まず「上司の情報を伝える」ことから始めてください。人間は、よく知らない相手に心を開くことはとても難しいものです。部下の心を開かせるには、自らの情報を部下に開示することから始めることが、円滑なコミュニケーションを行うコツです。これを続けていけば、次第に部下は自分のことも話すようになるはずです。
上司と部下のコミュニケーションにおいては、どうしても上司からの話が多くなりがちです。適切な部下とのコミュニケーション量は「聴くが8割、話すが2割」といわれていますが、これを実現するのはなかなか難しいことだと思います。部下の話を「聴く」ことは、意識しないと難しいことなのです。
部下と適切なコミュニケーションを取るには、日頃から「部下の話を聴く」ことを実践し、部下に「この上司は話を聴いてくれる」と思わせる環境づくりが必要になります。それは部下からの信頼感につながり、信頼関係が構築できれば、上司から積極的にコミュニケーションを行わなくとも情報は集まってくるようになります。
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