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経産省が太鼓判! あのワタミが「健康経営優良法人」に認定されたワケ人事総務部長にインタビュー(3/3 ページ)

» 2022年03月28日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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(1)健康課題に向けた取り組み

 現在、健康診断の受診率100%を継続して維持している。健康に留意する必要がある従業員には運動プログラムや食事の在り方を提案するなど、健康の維持・管理支援も行っているという。メンタルヘルス相談窓口は社員本人だけではなく、その配偶者といずれかの被扶養者も利用可能。希望に応じて、メンタル不調に関する電話でのカウンセリングやWeb相談、面談形式のカウンセリングを受けることも可能となっている。

(2)働き方改善の取り組み

 勤務した時間の確認と管理を行う体制を構築し、労働時間の適正化を図っている。具体的には「1日の残業時間は最大7時間以内」「勤務間インターバルを10時間以上確保」「月間残業時間は最大45時間まで」「休日労働は1日10時間まで」など細かく規定し管理。その上で労働時間が長くなりそうな従業員の上長に対しては、人事から注意喚起がなされるという。残業時間が月45時間を超えてしまった場合、本人および当該従業員の上長は違反理由報告を義務付けられるという厳しいものとなっている。繁忙期には、本部の人員も交えて営業態勢を整えるなど、全社一丸となって労働時間の管理に取り組んでいるようだ。

 ダイバーシティーの実現についても、さまざまな取り組みを実施している。一例として、従業員が出産・育児・介護などに携わりながら継続勤務可能となるよう、出産・育児・介護に関する支援や休職などの各種制度、ならびに時間短縮勤務や深夜就労・残業制限などを導入した。繁忙期などで急きょ人員が必要となった際、本社勤務社員が店舗で接客のヘルプ業務を担うこともあるという。

(3)新型コロナウイルス対応とワークエンゲージメント向上への取り組み

 新型コロナウイルスの影響を受けて、外食事業では長期的に休業・時短営業が続くが、20年5 月に「ワタミエージェント」を設立し、従業員に派遣先を提供することで、多様な働き方の推進と雇用の維持に努めている。社員派遣先、出向先としては、人手不足のスーパーマーケットや介護施設、農家、児童デイサービス、清掃会社などの実績がある。

 22年3月からは副社長が全国の拠点に出向き、少人数グループで社員と対話する会を開催。コロナ禍で出向や休業に耐える従業員に寄り添う姿勢を示している。対象は店長及び一般スタッフであり、会長のメッセージとして「事業を始めた思い」を共有し、副社長のメッセージとして「会社の5年後の世界」と「中期経営計画のブレークダウン」を実施。

出所:同社プレスリリース

 参加者全員で「5年後の会社に望むこと」について話し合うチームビルディングも実施している。経営トップへ直接意見を述べられ、自分の意見によって改善される――このことを通して従業員のエンゲージメント向上を実現できているという。実際に、従業員の声を基に、「eラーニングの導入」や「既存の店長研修のWeb化」、また「SV(スーパーバイザー)研修の実施とプログラム化」「課長級以下の副業解禁」「社内貸付金制度の拡充」などが実現している。

 今後の取り組みについて落石は「コロナ禍で不安を抱える社員一人一人に寄り添い、人材育成や労務改革に一層力を入れてまいります」と意気込みを話してくれた。

 同社は厳しい批判に直面しつつも、社名変更など安易で表面的な弥縫(びほう)策に走らず、批判と現実を率直に受け容れ、痛みを伴う改善に地道に取り組んできた。また、業容拡大期に武器となった持ち前のスピードや突破力、一枚岩の組織力をフルに労働環境改善のために投入し、着実な数字を残し「健康経営優良法人」の認定につながった。最近では焼き肉や“すし”といった新規事業にも旺盛に取り組むなど、本業面での勢いも出始めている。まさに健康経営は、福利厚生だけでなくビジネスにも好影響を及ぼす、これからの企業にとって避けては通れない取り組みだといえるだろう。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト。

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員も務める。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)、「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)他多数。


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