木とソーダ、木とパウンドケーキという意外な掛け算は「食べてみたい!」という欲求を刺激する一方、本当に安全に食べられるのか? という疑問を残す。
古谷さんは、木の成分が人体に悪影響を与えないか、加工した際に有害な香りを発生させないかなどを食品検査場にてチェックしていると話した。
スパイスやハーブなどにもない独自性を木の香りに感じ取り、木を食材として活用するに至った日本草木研究所。その活動の背景には、木の食用化に対する好奇心だけでなく、日本の林業に対する問題意識もあった。
日本草木研究所は「名もなき草木が日常の食卓に並ぶ未来の実現」を掲げる。一見、雑草やごみと認識されているものに付加価値を付けることで、林業従事者の収入を増やしたり、山の環境を改善したりと山に興味を持つ人を増やす活動を続けている。
古谷さんによると、高度経済成長期の林業は儲かる仕事の一つだったという。しかし、現在は当時と比較して林業従事者の収入は35%程度に。メイン事業である木材の販売以外にも、きのこや木の実の販売など二毛作的にビジネスを展開しているものの、後継者不足や稼ぎ口の減少などの問題から斜陽産業になってしまったのだ。
木材として価値があるものの多くが一枚板や一本の丸太など、ある程度のサイズを伴ったものだ。木の枝や葉などは森の中で埋もれていく「無価値」なものだった。しかし日本草木研究所は、その「無価値なもの」に価値を見いだし、林業市場価格の10〜30倍ほど高い値段で買い取っている。
林業従事者たちはさぞ驚いただろう。今まで、ごみだと思っていたものに主力商品よりも高い値段が付いたのだから。そんな高値で取引してしまって大丈夫なのか? と心配になるが、古谷さんは「商品の販売金額から原材料を逆算した場合、原材料としては適正価格だと思っています。『木材の新しい活用方法を発見してくれる人が今までいなかった』と喜ばれることが増えました」と話す。
木材の新しい活用方法が生まれたことで、消費者は「木を食べる」という体験ができるようになった。林業従事者にとっては副業やビジネスの可能性が広がった。そして、木材の消費量が増えることは、間伐推進にもつながる。三方良しのビジネスだが、古谷さんは「商品がおいしくないと意味がない」と味へのこだわりを強調した。
「林業従事者の副業や間伐問題など、エシカルな文脈で語られることが多いビジネスかもしれません。しかし、商品自体がおいしくないと続かない、広がっていかないと考えています。『木って食べる価値があるよね。放置するのもったいないよね』と心からおいしさを感じてもらえるかを重視しています」
エシカル消費、サステナブルという言葉を見ない日はないほど世界中で関心が高まっている。一方で、そのビジネス的な意義よりも「おいしい」「いい香り」の食べ物に軍配があがることのほうがまだ多いだろう。「文脈だけの商品として手に取られるのではなく、おいしさで選ばれる商品を開発していきたいです」(古谷さん)。
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