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「効率が悪い」新入社員にいら立っても、“ハラスメントにならずに”指導する4つのポイント弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」

» 2022年04月05日 12時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]

連載:弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」

ハラスメント問題やコンプライアンス問題に詳しい弁護士・佐藤みのり先生が、ハラスメントの違法性や企業が取るべき対応について解説します。ハラスメントを「したくない上司」「させたくない人事」必読の連載です。

 新入社員は、4月から自身を取り巻く環境が一変します。一人暮らしを始める人も多く、そのほとんどは、知り合いのいない環境で新たな人間関係を築いていかなければならないでしょう。前編で紹介した裁判例が指摘している通り、こうした状況自体が、新入社員にとっては大きなストレスになり得ます。

前編はこちら

 その上、仕事が忙しく残業が続いていたり、厳しい指導を受け続けたりすると、新入社員にかかるストレスは相当なものです。中には追い込まれてしまう者も出てきます。たとえ「違法なパワハラ」に当たらない程度の指導であったとしても、新入社員の働く意欲がそがれてしまうことは十分考えられ、会社や指導した上司が法的責任を負うこともあり得ます。

 従って、新入社員に対する指導には、一段上の配慮が必要といえるでしょう。

 「一段上の配慮」というと、指導する側としては「腫れ物に触る」ような気持ちになるかもしれません。しかし、上司が萎縮してしまえば、部下との円滑なコミュニケーションが難しくなりますし、部下の成長にもつながらないでしょう。正しい指導方法を知り、新入社員と適切にかかわっていくことが大切です。

「ハラスメントにならない」新入社員への指導ポイント 

 新入社員への指導ポイントを4つご紹介します。基本的なことに感じられるかもしれませんが、まっさらな状態で入社してくる新入社員同様、基本に立ち返って初心を忘れないことこそ、この時期には重要でしょう。

(1)指導・叱責の目的は、「新入社員の成長」にあると意識する

 メールの送り方や資料の置き場など、仕事に慣れている上司からすると当たり前のことでも、新入社員には分からないことが多くあります。そのため、新入社員の仕事ぶりは「効率が悪く、ミスが多い」ように見えるものです。

 上司はいら立ち、新入社員を叱りつけることがよくありますが、叱るだけでは、何が悪いのかも、どうすれば改善するのかも、相手には伝わりません。中には「叱られて成長するものだ」と考えている上司もいるかもしれませんが、「叱って分からせる」というのは決して合理的な方法ではありません。

 指導や叱責の際は、「新入社員を成長させるため」に行っていることを常に忘れないことが大切です。目的がぶれなければ、指導方法も、自然と適切な言葉遣いで、短時間で効率よく伝えるものになるはずです。それが、ハラスメントを遠ざけることにもなります。

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

(2)具体的に指導する

 上司の中には、「自分で学ぶべき」と考え、具体的なやり方を教えない人もいるでしょう。しかし、それでは、必要な指導をしていないのと同じです。例えば、資料の置き場など、まだ何も知らない新入社員に対し、自分で探すよう求める必要はないと思われます。また、企画書や報告書などの作成において、足りない点があれば、具体的にどこをどう補えばよいのかを示すと共に、補うための資料の見つけ方や必要な知識を持っている他の従業員を教えるなど、新入社員が仕事を進めやすい環境を整えることが大切です。

 手取り足取り全てを教えることに抵抗がある場合でも、一緒に考えたり、ヒントを示したりして、新入社員に丸投げすることは避けましょう。

(3)相談時間を確保する

 新入社員に仕事を任せる場合は、特に、相談時間を十分確保するようにしましょう。新入社員は、通常より仕事に時間がかかるものなので、余裕を持って仕事を任せ、途中経過を必ず報告してもらいましょう。その際、課題点を洗い出し、次の報告までに改善するよう指示します。対外的な締め切りがある場合、間に合わなくなる危険もあります。そのため、新入社員には、あらかじめ時間がかかってしまいそうなときは、事前に上司に報告するよう伝えておくことも大切です。

 締め切りが迫っているような仕事を急に任せ、上司との相談の機会のないまま進めさせ、結果的に失敗したらその責任が新入社員にあるような叱責をする、といったやり方は避けましょう。

(4)一度にいろいろな指導を混ぜない

 新入社員は、複数のさまざまな問題点を抱えていることがあります。例えば、遅刻して来た上に、任せた2つの仕事、どちらにも課題があるような場合を想定しましょう。それぞれの問題について事情を聴いていくと、いろいろな理由や言い訳が出てくることもあります。

 そのような状況で、一度に全ての指導をしようとすると、とても時間がかかります。さらに、新入社員側の言い分、一つ一つに立ち入っていけば、本来指導すべき内容とは異なることで、叱ることにもなりかねません。

 そのため指導の際は、一回につき一つの案件について集中して行うようにしましょう。別件については「その件は、また後日」と言って区切るようにします。遅刻や仕事上での課題の背景に、新入社員が抱える個人的な悩みなどがあることもあるでしょう。そうした背景事情については、後日別の機会に相談に乗るなどしましょう。上司一人で対応するのが難しい場合には、他の従業員や相談先と協力しながら対応することも大切です。

 一度にいろいろな指導をすることで、指導時間が長時間に及び、上司の側が感情的になりやすくなる可能性があります。指導の際にかかった時間、頻度、指導の際の表現、内容などは、違法なパワハラに当たるか否かを判断する際の重要な考慮要素でもあります。指導を区切ることもまた、違法なパワハラを遠ざける有効な方法です。

著者プロフィール

佐藤みのり 弁護士

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慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


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