攻める総務

ポストコロナ時代の株主総会 バーチャル株主総会はなぜ問題か?フィデリティ・グローバル・ビュー(2/3 ページ)

» 2022年04月14日 07時00分 公開
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バーチャル株主総会はなぜ問題か?

 新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が発生した当初は、企業に対してバーチャル株主総会の開催を認める法律が世界で相次ぎ制定されました。これらは時限措置であり一部は今後数カ月で失効するため、多くの企業は定款を改正してバーチャル開催を定着させようと考えるでしょう。

 しかし、私たちの経験では、バーチャル開催への完全な移行は株主に必ずしもプラスとはなりません。そのため、企業がバーチャル株主総会を取り入れようとする場合、フィデリティ・インターナショナルは、対面とバーチャルのハイブリッドだったり、あらかじめ指定された状況での回数を限定した開催だったりする場合に、賛同する傾向があります。

 こうした方針にはいくつかの理由があります。私たちは、対面の株主総会はコーポレート・ガバナンスで重要な株主の発言機会を提供していると考えています。バーチャル株主総会などでは、経営陣にとって好ましくない質問や提案を容易にわきに追いやったり、軽視したりできる可能性があります。

 東南アジアでは、マレーシアに拠点を置く「マイノリティ・シェアホルダーズ・ウォッチ・グループ」(MSMG)が2021年、バーチャル株主総会に提出した質問が無視され、中には読み上げられないものもあったと公表しました。

 フィデリティは、機関投資家の委任状による投票という慣行から離れ、2年前にドイツで開かれたある株主総会に担当者を送りました。紛糾した取締役の選出に直接対応するためです。ドイツのように株主総会で投票以外に議案も提出できる一部の市場では、株主の出席が必須となる場合があります。このケースでは、委任状による議決権行使ができなかったため、フィデリティは代表者を出席させました。

 すべての投資家が機関投資家のように、経営陣に直接コンタクトを取れるわけではありません。多くの株主にとって、経営陣と顔を合わせる唯一の機会が年次の株主総会のみである場合も多いです。対面の株主総会であれば、株主は声明を出したり、突っ込んだ質問をしたり、もしくは株主としての権利を守ったりするために注目を引き付け、主張することができます。すべての投資家にとって、いざというときに出席する選択肢を持つことにメリットがあるのです。

 また、アクティビストにとって、バーチャル株主総会は新しい、難しい問題をもたらします。米ハーバード・ロー・スクールが2021年に主催したコーポレート・ガバナンスに関するフォーラムでは、パンデミックにより企業側が株主総会の運営を厳しく管理できるようになり、アクティビストとしての行動が難しくなっている、と結論付けました。

各国政府はバーチャル株主総会を後押し

 それでも、バーチャル株主総会は広がり続けています。世界銀行の2021年7月の調査では、パンデミック以降、45の国・地域が緊急立法によって企業のバーチャル株主総会の開催を認める法律を導入し、すでにそうした枠組みを持っていた69の国・地域と足並みをそろえました。先進国・地域の90%に加え、アジア・太平洋の国・地域のほとんどで、バーチャル株主総会の開催が認められています。

 バーチャル株主総会を定着させるために定款を変えようとする企業が増える中、こうした世界の動きはパンデミック後もバーチャル株主総会が主流であり続ける道を開くかもしれません。

法的枠組みのもとでバーチャル株主総会の開催を認めている国・地域(出所:世界銀行、フィデリティ・インターナショナル、2021年7月) 注:サンプルは153の国・地域をカバーしている(2020年時点)。東アジア・太平洋地域は14の国と島で構成し、大部分がパンデミックによる影響を早い段階で受けている。

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