どうなる裁量労働制──本来の裁量がない、過労自殺などの事例もこれからの「労働時間」(4/4 ページ)

» 2022年04月19日 06時00分 公開
[溝上憲文ITmedia]
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 裁量労働制は働き方の自由度を高めるメリットがある反面、会社が恣意(しい)的に運用すれば働く人にとってデメリットも生じる。前出の労働政策研究・研修機構は調査した労働者の「自由記述欄」を公表している。その中には企画型の社員からこんな声があがっていた。

朝の所定の時間から夕方の所定の時間まで、1日8時間の勤務が求められており、あまり裁量労働制の意味がないと思われる

現状では、残業代なしで会社のやらせたいことをやらせるだけの制度になっています。(当社においては)部署が変わったので多少楽になりましたが、それでも月200時間は仕事をしています。制度を維持するなら、適切な労働時間、給与となるよう改善してほしい

今後に向けての議論と検討

 こうした一連の事実が大きく報道され、裁量労働制に問題や課題があることが分かり、裁量労働制の実態把握を含めて調査し、あらためて議論することになった。

 議論が動き始めたのは21年6月の政府の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2021)だ。その中に「裁量労働制について、実態を調査した上で、制度の在り方について検討を行う」と盛り込まれた。

 また政府の規制改革実施計画(同年6月18日閣議決定)の中で「厚生労働省は裁量労働制について、現在実施中の実態調査に関して、適切に集計の上、公表を行う。その上で当該調査結果を踏まえ、労働時間の上限規制や高度プロフェッショナル制度等、働き方改革関連法の施行状況も勘案しつつ、労使双方にとって有益な制度となるよう検討を開始する」と明記された。

 これを受けて「裁量労働制実態調査の結果」が公表された。そして同年7月から、有識者による厚生労働省の「これからの労働時間制度に関する検討会」がスタートし、現在も議論が続けられている。

 働く人にとって安全で有益に裁量労働制をどう構築するかが大きなテーマであり、今後の検討に期待したい。すでに先進企業では裁量労働制を上手に活用している企業もある。

 次回は先進企業の実例や裁量労働制で働く社員の声を紹介する。

著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。


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