この役員は18年に吉野家に転職をしたそうだが、そこで大きなミッションとして結果を期待されていたのが、女性客を増やすということだ。東洋経済オンラインのインタビューでもこう述べている。
『客層が偏っていることが吉野家の抱える長年の課題だった。男性ビジネスパーソンやトラックの運転手らが多かった。特に、店内で食べる顧客の男女比は8対2。競合チェーンと比べても男性比率が高い』(東洋経済オンライン 2020年2月6日)
それがかなり切実なものだったのかというのは、19年8月、メルカリのスマートフォン決済「メルペイ」を使ったキャンペーン発表会で発した以下の言葉からも容易に想像できよう。
「10〜20代といった若年層や女性のお客さんがのどから手が出るほどほしい」(日本経済新聞 2019年10月8日)
サラリーマンの皆さん、なおかつ「結果」を求められて要職にヘッドハンティングされたようなご経験のある方ならば分かるだろうが、この役員の方の立場でのプレッシャーはかなりのものだ。
平社員で転職をしたわけではなく、経営陣として迎えられているので、会社側が期待する成果を出さなければ、露骨に冷遇されていく。場合によっては、キャリアに傷がつくかもしれない。朝から晩まで「若年層や女性を増やす」ためのマーケティングを考えたはずだ。
そこでたどり着いたのが、「黒い吉野家」と言われる「クッキング&コンフォート」だ。東洋経済オンラインのインタビューで、このように述べている。
『女性が店に入りづらいのなら、店自体を変えてしまおうと、「クッキング&コンフォート」と呼ぶ新型店舗への改装を進めている。従来のU字形のハイカウンターを廃してソファやテーブル席を設置し、コーヒーも提供してゆっくり過ごしてもらう。郊外をメインに約100店舗が改装済みで、今後500店舗ほどまで増やしたい』(東洋経済オンライン 2020年2月6日)
ちなみに、このクッキング&コンフォートの拡大は、22年から24年までの中期経営計画の中でも掲げている。そのような意味では今、この役員にとっては「若者や女性客の拡大」を会社から求められる敏腕マーケーターとして、かなりの「勝負のとき」なのだ。
その勝負にあまりにのめり込みすぎて、「視野」が狭くなってしまったのではないか。練り上げたマーケティングで、悲願である女性客をとにかく増やしたいという思いが空回りして、成功できるかどうかという不安と期待の混じった高揚感で、おかしなことを口走ってしまったのではないか。
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