育児休業を取得しやすくするためには、管理職や周囲の同僚の理解が不可欠であり、育児休業を取得する当事者のみならず全労働者を対象として研修を実施することを検討するとよいでしょう。
管理職世代は片働き世帯も少なくなく、本人以外に育児を担う者がいたため育児に関わらなかった人も多くいます。
また、子どものいない従業員は育児経験がないために育児に対する想像が難しく、育児休業への理解そのものを難しくしている場合があります。
育児休業取得の当事者は、はじめての育児休業の場合、全てが分からないことだらけです。上司への育児休業取得の申出の際には、どれくらいの期間育児休業を取得するのか、いつから取得するのか、その間の仕事の調整はどうするのか。また、育児の対象となる子ども以外の兄弟の状況や配偶者の働き方など、家族の状況を含めて上司に筋道立てて説明する能力があると、育児休業取得に根拠を持たせることができます。
上司の理解や周囲の支援を引き出すためにはどのように申出をするとよいかなど、実践的な研修を行うとよいでしょう。
また、育児休業取得をためらっている従業員に対しては、育児を通じて職場以外の社会に触れることで気付きが生まれ、仕事への視野を広げる可能性があることも伝えましょう。
管理職は、育児休業以外にも、長時間労働の是正や年次有給休暇の取得など働き方改革を推進し、従業員のワークライフバランスに配慮したマネジメントが一層求められています。
管理職は業務に精通しているだけでは不十分で、従業員が家庭内でどのような事情を抱えているかイメージできてこそ、マネジメントにも深みが出ます。
部下の育児休業支援は、管理職のマネジメントの視野を広げるメリットがあることも研修で伝えましょう。
相談体制の整備は、相談窓口の設置や相談対応者を置き、これを周知することを意味します。
形式的に窓口を設けるだけでなく、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることが必要であり、また、労働者に対する窓口の周知などにより、労働者が利用しやすい体制を整備しておくことが必要です。
企業は育児・介護休業法で求められている相談窓口の設置だけでなく、男女雇用機会均等法やパートタイム・有期雇用労働法などさまざまな法律で相談窓口の設置が求められています。
根拠となる法律は異なりますが、相談窓口設置の目的は、従業員が安心して相談ができ、不安や不満で仕事上のパフォーマンスを落とすことがないよう両立支援につなげるという点で同じです。社内の相談窓口を横断的に見直し、従業員のために機能する体制を整備することが重要です。
育児休業は労働者の権利であってその期間の労務提供義務を消滅させる制度であるため、育児休業中は就業しないことが原則です。
出生後8週間以内の産後パパ育休期間は、女性の産後休業期間中であり、労働者本人以外にも育児をすることができる者が存在するケースがあります。そのため労働者の意に反したものとならないことを担保したうえで、労働者の意向を踏まえて、事業主の必要に応じ、事前に調整することで就労が認められます。
具体的には、労働者の意に反したものとならない仕組みとするため、過半数組合または過半数代表者との労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主の合意した範囲内でのみ就業が可能とされ、就労可能日数の上限(休業期間の所定労働日・所定労働時間の半分など)があります。
出生時育児休業の仕組みを従業員に説明する際は、育児休業給付および育児休業(出生時育児休業を含みます)期間中の社会保険料の免除について、休業中の就業日数についてはその要件を満たさなくなる可能性があることも合わせて説明することが必要です。
ある調査では、男性の育児休業取得に関して、管理職は3日以内の取得なら8割以上が賛成、4カ月以上の取得には半数が反対という結果があります。
男性が長期の育児休業を取得できる職場の整備には、業務分担や部下のマネジメントをする立場にある管理職の負担や不安を軽減することが必要であり、組織風土改革や働き方改革が不可欠です。
男性が育児休業を取得しやすい職場環境とは、全ての従業員にとって働きやすい職場です。育児・介護との両立のみならず、通院しながらの仕事、シニアの活躍など労働者の多様化が進むなかで、生活上の都合や家庭的責任といった労働者が抱える制約に合わせて、どのように人材を有効活用するかという企業の人事管理そのものの意義が問われています。
合同会社パリテ代表社員/特定社会保険労務士/ワーク・ライフバランスコンサルタント
人事・労務管理をはじめ、経営戦略としてのワークライフバランス導入支援、ウェルビーイング支援などに注力する。ワークライフバランス情報サイト『ワークライフバランスの森』を運営。
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