クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

マツダの世界戦略車 CX-60全方位分析(1)池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2022年04月25日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

多品種少量生産をどう実現するか?

 この第7世代のラージプラットフォームのライフタイム全体で考えれば、4気筒ガソリンと、6気筒のディーゼル/ガソリン内燃機関にそれぞれPHEVと48ボルトマイルドハイブリッドを組み合わせる。そしておそらくいずれかのタイミングでこれにBEVモデルも加わるだろう。

 ではそれだけ多種多様な仕様を用意して、生産が合理的にできるのかという問題が残る。これを解決しないと、多品種少量生産でコストアップに陥って自爆する。

 そこでマツダが取り組んだのは、従来から行われてきた、混流生産のより一層のブラッシュアップである。マツダの混流生産とは、同じ車種をまとめて作らない方式である。マツダ2の次にロードスター、その次はCX-5ということができる。生産の順番を決めるのは全国の販売店からのオーダーシートで、車種を固めずに発注が来た順番でラインに流す。FFだろうがFRだろうが、ハッチバックだろうがSUVだろうが構わず続けて生産可能にしている。

 何でそんなことをするかといえば、マツダが世界のマーケットで戦っていくためには、かなり多種にわたる車種が必要だからだ。マツダ2、マツダ3はセダンとハッチ、マツダ6はセダンとワゴン、CX-3、CX-30、CX-5、CX-8、ロードスター。国内向けだけでもこれだけの展開が必要だ。これに加えて海外向けには、CX-4、CX-50、CX-9。そこに新たにラージプラットフォームのモデルが確定分だけでも4種。その他にマツダ6があり、クーペも出てきそうだ。そして多くの車種が少量生産だ。

 少なくとも、専用ラインを単一車種でフルに回せる可能性があるのはCX-5だけだろう。という事情があるから、マツダは、1本のラインで多車種を生産するしかないし、その切り替えに一々ラインを止めてセットアップしていたのでは工場の稼働率が堪(たま)らない。いくらやってももうからない。マツダとしては混流生産でシームレスに多車種を作れるようにするしかなかったのである。

マツダの販売台数の3分の1を占め、屋台骨となる売り上げをほこるミドルサイズSUV、CX−5

 そして今回のラージの導入を控えて、マツダはさらなる改革を進めた(記事参照)。それが「縦スイングと横スイング」である。1本のラインに順不同でいろんな車種を流せるのが縦スイングなのだが、横スイングとはそれをどこの工場でも可能にする改善である。従来は一口に混流生産といっても、広島の工場と山口の工場では、それぞれ流せるクルマに制約があった。

 その場合、トータルでの生産台数が少なくても、車種の都合で広島と山口両方のラインを動かさなくてはならなくなる。マツダでは山口の第2ラインに大改造を施して、全ての車種を混流生産できるようにした。今後はこの横スイングが可能な工場を増やしていくことになるだろう。

 また工場のフレキシビリティにも更なる工夫がある。まず第1に、重量負荷の大きいPHVやBEVを吊せるようにハンガーの耐荷重を上げた。第2に、ハンガーに下から部品を合わせるベルトコンベアーを、自動搬送車両(AGV)に切り替えて、床に根を下ろさない設備に切り替えた。これだとホイールベースが違う車種でも小型の2台のAGVを使って、それぞれにフロントサブフレームとリヤサブフレームを搭載して位置決めすることが可能になり、車種生産のフレキシビリティが向上する。

(筆者撮影)

 のみならず、AGVは台数を増減すれば、ラインの拡張/縮小が思いのままできる。工場のキャパシティを可変化できるのである。

 こういう生産のフレキシビリティを高めたことで、例えPHVが計画の倍売れても、思ったよりBEVが売れなくても、作ってしまった生産ラインの都合に合わず効率が落ちるということが起こらない。増えても減っても大丈夫。もちろんトータルの生産台数が減るのは困るが、それはどちらかといえば、生産の都合というよりは会社全体の売り上げの問題だからだ。

 さて、これで、ラージプラットフォームがなぜ必要だったのかと、スモール/ラージの作り分けを効率を落とさずにできる生産ライン改革の説明は終わりである。

 次回はパワートレインの発展性の話を説明しよう。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.