これまでのことから、黒海に注目すべき3つ目の理由として、NATOとロシアの権益が直接ぶつかる最前線であったという結論が導き出される。それは、そもそも冷戦開始直後からNATOとソ連が黒海を巡り、直接衝突した経緯を見てみればよく分かる。
NATOは、米国が主導する多極的な軍事同盟であるが、その実態は、それが「海洋国家の同盟」であるとも言えるのだ。
例えば、第二次世界大戦が終結した時点で、黒海周辺では共産主義を掲げるソ連の影響力が強まっていた。それに恐怖を感じたトルコとギリシャは、互いに外交的な問題を抱えているにも関わらず、同じNATOという軍事同盟に参加し、地中海の最東端で海を通じて米国とつながることを選択したのだ。
ところが黒海に接している周辺の国々、つまりルーマニアやブルガリアなどは、40年代から50年代にかけて次々と共産圏に組み込まれ、結果として冷戦期の間、黒海は「ソ連の内海」となった。
興味深いのは、バルト海の周辺国との状況との比較である。この地域で冷戦初期に共産圏に組み込まれたのはバルト三国(エストニア・ラトビア・リトアニア)、ポーランド、そして旧東ドイツだが、昨今、NATOへの参加を表明したばかりのスウェーデンも、当時は中立であったために、西側諸国はバルト海へのアクセスが困難であった。
つまりバルト海は「ロシア(ソ連)の海」であったために、その周辺国は(デンマークを除いて)共産化され、ソ連の影響下にあったと言える。
周辺諸国が共産化する中、ユーゴスラビアはソ連の完全な影響下には入っておらず、中立的な立場をとることができたが、これは東欧の社会主義国の中でも唯一西側の海洋ネットワークがリーチできる海(アドリア海)に位置していたという点も大きい。
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