軍事ルートとしての海の重要性は、日露戦争のときのバルチック艦隊の例を考えれば分かる。当時の世界の海は、帝政ロシアのライバルである大英帝国にコントロールされていた。
このため、ロシア帝国の海軍は、日本に向かう際にショートカットするためのスエズ運河を通れず、アフリカ大陸を大回りして疲弊していたところを、対馬沖で待ち構えていた東郷平八郎率いる連合艦隊に沈められたのである。
当時のロシアは軍事ルートとなるはずであったスエズ運河を大英帝国のおかげで使えなかったのだが、今回の戦争では逆にNATO側の船が離脱したため、黒海の軍事ルートは確保できたのだ。
ただ、今回の戦争の場合、トルコが黒海の出入り口を封鎖しているため、ロシアは外から艦船の増援はできない。NATO加盟国のトルコが、トルコ領内のボスポラス海峡・マルマラ海・ダーダネルス海峡の通航制度を定めた「モントルー条約」(1936年制定)に則って、ロシアをはじめとする軍艦の航行を制御しているからだ。
これを大きく俯瞰して考えると、ロシアは黒海という「内海」そのものは、ある程度コントロールできている一方で、その出入り口であるダーダネルスやボスポラス海峡をNATO側のトルコによって「フタをされている」という状態なのだ。
日露戦争から100年以上の時を経た今回の戦争でも、ロシアはまたしても敵対勢力に海上での主導権を握られていることになる。
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