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日本企業のサステナビリティ(ESG)開示に関する誤解と収益機会フィデリティ・グローバル・ビュー(3/4 ページ)

» 2022年06月03日 09時44分 公開
[井川 智洋, ジェレミー オズボーンフィデリティ投信]
fidelity

声高に語るに値する日油のサステナビリティ

 日油は多くのニッチ市場で確固たる地位を築いており、安定的な成長と高い収益性を実現しています。主な事業には、トイレタリーや化粧品の原料となる界面活性剤や薬物送達システム(DDS)製品などがあります。DDSは医薬品の有効成分を体内の適切な部位に安全に送達・吸収させるもので、mRNA医薬に活用されています。

 ある有名なESG評価機関は日油の化学物質安全管理システムが同業他社に後れを取っており、有害排出物のリスク軽減策やその取組みが遅れていると結論づけました。一方フィデリティの分析では、同社は業界標準に沿っており、欧州連合(EU)で定められた化学物質管理規則(REACH規則)への登録、評価、認可および制限の各規則に準拠していることから、前向きな取り組みができていると判断しました。

 また、日油は国内外の化学物質規制に対応するための取組みを行うとともに、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)に加盟し、サプライチェーンを通じて製品に含まれる化学物質等の情報交換を進めています。加えて、国連勧告として採択された「化学物質の分類および表示に関する世界調和システム (GHS)」 への対応も行っています。同社は海洋プラスチック廃棄物の問題に取り組むために設立された業界団体の協議会にも参画している他、経済産業省(METI)が創設した健康経営に取り組む優良な企業を認定した「健康経営優良法人」の 大規模法人部門である「ホワイト500」に認定されています。日油が抱える問題は、こうした優れたESG方針に見合った評価を株式市場から受けていなかったことにあります。

 フィデリティの株式アナリスト、ポートフォリオ・マネージャー、エンゲージメントチームは、19年12月から20年5月にかけて日油のIRチームおよび同社CEOと4回にわたってミーティングを行いました。

 フィデリティは、経営陣が財務目標やサステナビリティへの取り組みについての株式市場に対するコミットメントが消極的であることが、ESG評価を含めた市場での評価の低さにつながっている理由であることを伝えました。同社は自社の財務情報やESG情報の開示が不十分であることを受け止め、その解消に向けて力を入れて取り組むことを約束したことから、フィデリティでは同社の積極的な取組みが、その後の株式市場での日油本来の評価につながっていくと確信しました。

 20年11月、日油が同社初となる積極的な中期経営計画に加え、明確なサステナビリティ目標を公表したことを市場は驚きをもって受け止めました。さらにその翌月、日油は初の統合報告書を発行しました。その統合報告書は英語版も発行された他、ESGデータブックも盛り込まれ、重要なことに、CO2 排出目標を記載するなどサステナビリティに関してのフィデリティからのすべての提言が反映されたものとなっていました。また同社はガバナンスの改善や過度に保守的な財務計画に対処することを約束し、一般株主との利益相反につながりかねない政策保有株式の縮減にも取り組むとしました。

 日油は事業においてもまたESGにおいても優れた実績を持つ企業ですが、市場ではディスカウントされていました。同社がサステナビリティに係る取組み実績を含め、資本市場とのコミュニケーションに対して消極的であったため、結果としてESGレーティングや株価評価のディスカウントにつながったのです。こうした状況に対し、日油はサステナビリティに関する情報開示を高め、 CO2 排出目標を明確に示し、さらにより積極的な中期目標を公表することで、投資家の主要リスクに対応しました。

日油のサステナビリティの取組みの結果、同社株価が上昇 (出所:フィデリティ・インターナショナル、リフィニティブ、2021年4月)

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