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社運を賭けた大型プロジェクトの金庫番に抜擢! しかし、投資の判断経験がない──どうすれば?経営を動かすファイナンス(1/2 ページ)

» 2022年06月13日 07時00分 公開
[鷲巣大輔ITmedia]

連載:経営を動かすファイナンス

 財務や経理のみに限らない、ファイナンス人材の新たなキャリア候補FP&Aについて、FP&Aスペシャリストの鷲巣大輔氏が寄稿。今回は、投資判断において一般的に用いられるDCF法の意義についてです。

▼FP&Aとは?

CFOを目指したい人の登竜門? 『FP&A』とは、どんな仕事なのか


Q: 株式上場以来の業績苦境の中、社運を賭けた大型プロジェクトの財務経理担当メンバーとして選ばれました。まずはこのプロジェクトに必要な多額の初期投資を行う際の注意点について、財務経理の観点からアドバイスを求められましたが、これまでこのような意思決定に影響を与えるような判断をしたことがありません。

 どのような軸で投資すべき、もしくはすべきではないといった判断をしたらいいのでしょうか。

投資判断に用いるべき方法とは?

A: ファイナンス理論の教科書的な答えを言うのであれば、投資判断にはDCF(Discounted Cashflow)法を用いるのが最も一般的なアプローチです。

 ただしDCF法を社内の公式な判断基準として採用している企業はまだ多いとはいえない状況です。こうした投資判断に関して質問されるということは、質問者の方の勤務先においてもDCF法が投資判断の道具としては正式には導入されていないかと推測します。

 その場合は最終意思決定者に「DCFとは何か」、もっとさかのぼって「投資判断の基準となる考え方とはどういうものか」について理解をしてもらう必要がありそうです。

教科書的に言えば、投資判断はDCF法で行うのが最も一般的

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 ファイナンス理論におけるDCF(Discounted Cashflow)法は、投資判断を行う際に広く採用されている考え方です。DCF法について説明する書籍やWeb記事は数多くありますので、本記事ではDCF法そのものについての詳細な説明は割愛します。

 端的に概念だけ申し上げると、「リスクを考慮して設定された株主債権者の期待値に対して、当該プロジェクトはそれを上回るパフォーマンスを上げることができるかどうか」を定量的に測定する手法です。

 ある事例を用いて簡単に説明しましょう。事業のリスクを考えると該当の事業に対する投資としては「平均して年間10%のリターンが妥当である」と株主債権者が考えるとすれば、経営者にはその10%以上の年平均収益率を生み出すような事業運営が求められます。

 該当のプロジェクトに100億円の投資が必要だったとして、「10年のプロジェクト期間を通じてキャッシュを回収した時に、果たして年間換算で株主債権者の期待値である10%を上回る事業リターンを生み出すことができるかどうか」を定量的に把握する手法がDCF法です。

 ここでのキモは「株主債権者の期待値」を判断の軸にすることです。単に「黒字化すればいい」「3年以内に累損が解消されればいい」というのではありません。

 あくまでも資金提供者である株主債権者に対して説明責任を果たすため、合理性を定量的に説明することを可能にする考え方と言えます。こう考えると、決してDCF法はファイナンス担当の人間に任せっきりにして良い事ではなく、経営に携わる人間が主体的に関与すべき大変重要な基準であることが分かります。

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