2つ目の問題は、後々の査定額である。今回のように地域によって補助金の額が違う時、中古車の相場は果たして、何を基準に決まるだろうか? 一応今回の制度には4年程度(補助金と車種により年数が異なる)の縛りがあって、購入後一定年数は転売できないことになってはいる。その間に手放すなら、補助金の一部を返還しなくてはならない。
しかし、日産の発表によれば、SAKURAは発売から約3週間で1万1000台、同じく三菱の発表ではeKクロス EVは3400台売れている。まだまだ伸びるだろう。これだけ一気に売れたものを逐一個別監視できるのかどうか。こっそり転売する輩は出て来るだろうし、そうした中で相場は形成されていく。
世間の様子を見ていると、下取り査定にこの返還額を加味する仕組みはあまりないらしく、忘れたころに意外にも高額な返還請求が届いて、泣きを見るケースも多いようだ。いずれにしても多くの省庁をまたいだシステムが複雑過ぎて、多分これら全てを理解して制度を利用しているユーザーはほぼいないはずだ。
一般論としては、中古車相場は、新車の最安値を基準に形成されていく。物珍しい内はプレミアが付いたりするかもしれないがそれは一時の話である。もし東京の補助金をベースに相場が形成された場合、補助金の少ない地方で購入した人は、いきなり差額分だけ損をする。それはまたぞろ「BEVは下取り価格が悪い」という評判を醸成しかねない。
結局のところ、劇薬みたいなもので一気にカタをつけようと乱暴な手法を取るからそういうことになる。補助金とか規制とかで、えいやっと新時代が来るほど簡単ではないのだ。むしろ環境技術に向けて投資をしている企業に対して減税でもした方がずっと良いと思う。
さて、すでに始まってしまったこの補助金の悪夢を避けて、うまく着地する方法を官産一体でなんとかしなければならない。その後始末はかなり大変だと思う。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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