「残業が減って時間に余裕はできたけど、めっきり生活にはゆとりがなくなったよ」
こう漏らすのは、入社8年目のAさん。Aさんの会社は、中小企業をクライアントに持つ小さめの広告代理店。従来はみんな残業するのが当たり前だったと言います。
「何となく会社にいるのが普通でした」
ところが働き方改革関連法が施行されて以降、残業申請が必要になり、業務の進捗や計画を細かく上司に報告しないと残業ができなくなったそうです。もともと給与は他社の同年代の人に比べて高めだったので、その分、残業代も高く、ある程度「残業代を見越して生活設計していた」のだと言います。
しかし、残業が減ったことに比例して残業代も減少。以前ほど趣味にお金を使えなくなってしまったというわけです。また、Aさんのまわりでは残業代が減っただけではなく「自身の評価が下がってしまった」同僚もいたそうです。
「仕事量に大きな差が出たみたいです」
Aさんは、同僚のBさんについて語ってくれました。
Bさんも以前は、同僚の中で誰よりも多く残業をしていたようです。その時は、仕事量が他の社員よりも極端に少ないということはなかったようです。ところが、時短が始まってからというもの、日を追うごとに成果に差が開いてしまい、評価にも大きく影響が出てしまったということです。
かつては要領が悪くても、残業して成果を出せれば許されていました。それが、残業が自由にできなくなり、時間をかけられなくなった結果、仕事量や成果の差が一目瞭然になってしまったのです。
業務評価の基準に、「残業時間は何時間まで」と盛り込むことにしたA社。
それを知ったCさんは、「だったら残業代を稼ぐよりも評価を上げたほうが得だ」と考えました。そこから、「残業時間なんて少なく申告しておけばいい」と考えるようになり、正確な労働時間を申告しませんでした。
しかしこの考え方は、会社にとってはとんでもなく迷惑な話でした。問題は、社員の業務を正しく評価できないことではありません。
本人はよかれと思って行動していましたが、結果として未払い賃金が発生し、会社がコンプライアンスに違反する事態を招いたのです。過少申告したタイムカードと、パソコンのログの時間が一致していない事実が露見し、会社は労務の管理不足を指摘されることになってしまいました。
「職場以外でも仕事のことを考えていたら労働時間になりますよね。僕は、通勤する電車の中で、ずっと今日の業務について考えています。だから残業代を払ってください」
D社長に向かってこう言い出したのは、春に入社したばかりのEさん。
また、社員の知識と技術の向上のために研修を実施したところ、D社長は別の社員から次のような質問を受けました。
「研修を受けている時間も労働時間ですよね」
残業時間の話をすれば「どこまでが労働時間ですか?」という話題になり、研修を実施すれば「研修時間はすべて労働時間のはずだ」という意見が出てきてしまう。このようなときは、どう回答するべきでしょうか。私の考えではこうです。
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