「手に負えませんよ」 アイデアがない残業だらけの会社で起きた「時短」の裏側長時間労働の是正(4/4 ページ)

» 2022年06月29日 07時00分 公開
[大槻智之ITmedia]
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 もし新入社員から「どこからどこまでが労働時間ですか?」と尋ねられたら、「会社が指揮命令をして労務を提供している時間だ」と答えます。上司が指揮命令をしていない時間に「仕事をしていました」と訴えても通用しません。研修時間については労働時間とするのが一般的です。

 しかし、会社が命令をしていない研修への参加は、労働時間とはいえません。また、労務を提供していないことからも賃金は発生しない、という回答になります。

黒 どこからどこまでが労働時間なのか(提供:写真AC)

企業と個人それぞれの働き方改革

 事例2で紹介したケースは、かなり悪質な実例です。叩き上げタイプの営業部長は、「俺たちには労働基準法なんて関係ない」という感覚があり、人事部とはかなりの温度差がありました。今では職場環境は改善されています。

 働き方改革関連法の施行により残業の上限規制が始まると、一部の会社では、定刻に職場の電気を一斉消灯するという方法をとりました。そうすると、今度は会社の近くのカフェに続々と社員が集まるようになったというわけです。

 仕事を自宅へ持ち帰る社員も増えました。多くの会社では持ち帰りを禁止していると思います。それでもある程度、上司が目をつぶるとか、あえて泳がすこともあります。先のカフェでの労働も、どちらも法律違反です。

 もし、残業時間の超過が発覚すると大問題になります。管理職は降格されることもあるでしょう。悪質だとして部長本人が書類送検された事例もあります。最近は、以前に比べると、労務に対する認識は改められ、法律を守る意識が浸透してきています。

黒 残業時間の超過は大問題(提供:写真AC)

 事例3で紹介したケースは、残業がなくなると生活水準が変わってしまうという実例でした。これは構造に問題があります。残業を前提として組織を構成する、日本企業の特徴的な側面があらわれています。残業代をふくめてひと月の手取り給与の額が決まっている会社も多く、そもそもの基本額を低めにしていることもあります。残業が減り給与が減ってしまった分、給与を増やした経営者もいます。

 ブラック企業や社畜などの呼称が生まれたのは、ごく最近のことです。企業に対する世間の目は、この数年で確実に厳しいものになっています。そして、それに呼応するように行政の動きも活発になり、企業に労働環境の改善を強く求めるようになりました。それがまさに「働き方改革」なのですが、その改革を求められているのは企業だけではなく、「働く人」にも改革が必要なのだ、ということがわかってきました。

黒 企業と個人、それぞれに生産性の向上が求められる(提供:写真AC)

 働き方改革の大本命である「長時間労働の是正」には生産性の向上が不可欠であり、そのための業務全体の効率化は当然として、労働者個々人も生産性を向上しなければならないからです。今までは苦手な業務であっても、時間をかけて期日までに達成できていればよかったのです。それが、時短により、時間をかけずに達成しなければならなくなりました。

 働き方改革により、生産性の向上を求められたのは企業でした。しかしそれは同時に、働く人にも生産性の向上を求めていることを再認識しておく必要があります。

ポイント

 部下の業務を結果だけで判断するのではなく、なぜ時間内に仕事を終えられないのかを把握することが重要です。一度、社員の隣に一日中張りついて、仕事ぶりを見てください。本人にとって、ベストだと考えている仕事の仕方が実は間違っていないかを管理職が確認し、すり合わせを行うとかなり効果的です。これが労務の改善ポイントになります。管理職には、社員の業務を管理して指導する役目があります。業務量と成果の把握をし、本来あるべき姿に近づける、その方法を指導することこそが管理職の仕事です

著者紹介:大槻智之

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1972年4月、東京生まれ。2010年3月、明治大学大学院経営学研究科経営学専攻博士前期課程修了。経営学修士。特定社会保険労務士、傾聴アソシエ、採用定着士、ジョブオペ認定コンサルタント、仕組み経営コーチ、500社を超えるクライアントを抱える社会保険労務士法人・大槻経営労務管理事務所の代表社員。採用、目標管理、評価制度、業務改善、経営仕組み化支援までHR全般を手掛ける。人事担当者の交流会「オオツキMクラブ」を運営し、300社(社員総数20万人)にサービスを提供する。


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