なぜ“交通系の話”はあまり出てこないのか 「参院選 2022」の公約イッキ見杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2022年07月04日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

国鉄分割民営化と「鉄道族議員」弱体化

 東海道新幹線が開業した64年に国鉄は単年度赤字となり、66年度には繰越利益も底を突いた。完全に赤字だ。68年には国鉄諮問委員会が「経営改善のため、鉄道の輸送力を必要としない83路線を廃止すべき」と答申した。それでも、約200路線の建設を掲げた改正鉄道敷設法は87年まで存続した。地方出身議員が建設を望み続けたからだ。その後押しをするボスがいた。自民党政調会長の田中角栄だ。

 田中は「鉄道は地方発展のためなら赤字を出しても良い。それが国鉄の役割だ」といい切った。「鉄道建設は国策であり、独立採算の国鉄に国が公的支援をしないなら、国が新たに鉄道建設する組織をつくるべきだ」

 大蔵大臣となった田中の尽力で鉄道建設公団が設立され、新路線を建設し、国鉄に無償で譲渡した。国鉄は建設費負担がなくなったけれども、赤字が予想された路線を押しつけられる形になった。これが国鉄の巨額債務の一因となった。ただし、国鉄の赤字が膨らんだ主な理由は、東海道新幹線の建設債務のほか、高度成長期の首都圏の輸送力を増強する「通勤5方面作戦」が大きい。

 前述のように国鉄は独立採算とはいえ、施策のほとんどは国会の決議が必要だった。しかもインフレ対策を掲げる国の方針で運賃値上げも実施できなかった。そのくせに独立採算のタテマエで国の支援を受けられない。その代わり国は低利率な財政投融資を行った。

 ところが、財政投融資の財源は郵便貯金や国民年金など「国民の預かり資金」だ。大蔵省は赤字国鉄へ融資し続けるわけにはいかなくなった。そこで国鉄は高利な債権を発行し続けざるを得なかった。その結果国鉄は37兆円の累積債務、年間1兆円の利払いが発生し、債務超過が常態化した。

 国鉄にはもう1つの解決課題として労務問題もあった。70年に国鉄が生産性向上を目的として始めた「マル生運動」に対して、労働強化につながるとして労働組合が反発。労働争議が列車の運行まで影響した。労働組合側が経営側の不当労働行為を訴え、いくつかの裁判に勝利すると、ストライキの権利を獲得するためのストライキを断行。75年11月から12月にかけて8日間も列車を停めた。

 しかしその結果、迷惑を被った利用者と貨物の荷主が嫌気した。鉄道貨物輸送はトラックにシェアを奪われつつあったけれども、このストでトラック輸送の人気がますます高まり、貨物列車の信頼性は失墜した。

 国鉄の累積債務の精算、赤字ローカル線の整理、労使関係の改善、利用者へのサービス向上など、あらゆる問題をまとめて解決すべく、国鉄改革が行われ、最終的には分割民営化となった。

 マイカーやトラックの普及で国民の鉄道に対する重要度も低下した。この時点で、かつて地方鉄道建設続行を唱えた議員はほとんど消えた。そのかわり高速道路、高規格国道の誘致を公約する「道路族」が増えたという。

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