月1250円で誰でも鉄道・バスが乗り放題「9ユーロチケット」導入、ドイツ政府の狙いとは古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)

» 2022年07月08日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 ドイツ政府は1日、「9-Euro-Ticket(9ユーロチケット)」とよばれる「公共交通機関乗り放題チケット」の7月分を販売開始した。

 このチケットを使用すれば、日本の「新幹線」に相当する「ICE(インターシティエクスプレス)」などの高速鉄道や長距離バス等の一部を除く、ほぼ全ての公共交通機関が9ユーロ(約1250円)で1カ月間乗り放題となる。

「9-Euro-Ticket(9ユーロチケット)」の販売ページ

 ドイツでは、州や一定の地域内で特定の公共交通機関が乗り放題となる地域限定の定期券が発行されていたが、今回はその対象を全土にまで拡大して値段も大幅に下げるという試みとなる。運輸会社が被る赤字部分は政府からの補助金で賄われる。

 対象にはドイツ国民や居住者にとどまらず、外国人も含まれる。したがって、バカンスなどでドイツを訪れる海外からの観光客も9ユーロチケットの恩恵を受けられるというわけだ。

導入の背景にウクライナ情勢あり?

 自国におけるエネルギー資源の大部分をロシアに依存しているドイツにとって、ウクライナ情勢に伴うロシアへの経済制裁は間接的に自国にとっても悪影響をもたらす「諸刃の刃」となっている。

 ドイツのショルツ首相は、天然ガス・石油のロシア依存体質から脱却するため、年内の石炭・石油の輸入停止と24年半ばを目処としたロシア依存ゼロの方針を示したが、これがドイツ国民の家計を圧迫し始めている。

 足元ではガソリンスタンドにおけるガソリン1リットルの小売価格は、おおよそ1.8ユーロ近辺(約250円)で推移している。日本での取引価格よりも3〜4割程度高い値段で取引されており、車社会のドイツにとっては家計に大きなダメージとなっている。

 ドイツ政府はガソリン税の引き下げにも踏み切った。しかし、それでも高止まりする原油・ガソリン価格が市民生活を圧迫することを危惧して、公共交通機関の利用を促す狙いが9ユーロチケットにはあるといえるだろう。

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