月1250円で誰でも鉄道・バスが乗り放題「9ユーロチケット」導入、ドイツ政府の狙いとは古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2022年07月08日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

「9ユーロチケット」2つの副次的効果

 国民への家計応援の他に、9ユーロチケットの販売は大きく分けて2つの副次的効果も期待される。

 まずは、観光地への需要喚起だ。観光地といえばコロナ禍で大きな打撃を被っている産業でもあるが、仮にコロナ禍が収束したとしても、ガソリン価格が高止まりを続けていると人々は車での遠出を控えてしまい、客足が戻るまでさらに時間がかかる。公共交通機関の価格を大幅に下げるキャンペーンを夏のバカンスシーズンに実施することで、観光産業への需要促進が期待されるだろう。

 現に、9ユーロチケットを入手した観光客が、休日や祝日に人気の駅へ殺到している。6月にはバルト海沿岸や北海沿岸のような涼しいエリアを目指す観光客で駅が混雑していた様子が一部で報じられている。

 9ユーロチケットが利用できる最大の鉄道会社、ドイチェ・バーン(ドイツ鉄道)は、金曜日から日曜日、及び祝日の朝9時から11時、14時から17時までの間に混雑する旨を注意喚起しており、とりわけ自転車の持ち込みや自転車を活用した旅行プランを立てないことを推奨している(ドイツでは自転車を活用した旅行が普及している)。

 もう1つの効果としては、脱炭素だろう。ドイツはロシアの天然ガスパイプラインである「ノルドストリーム1」によって、石炭や石油といったCO2排出量の大きい化石燃料や、原子力発電の利用を抑えつつ、再エネ重視の脱炭素政策を推進することができていた。

 しかし、国内外の世論に押される形で石油や天然ガスの脱ロシア化を進めた結果、石炭火力発電に切り替えざるを得ない状況に追い込まれている。

 ここで、輸送量あたりの二酸化炭素排出量が小さい、鉄道を中心とした公共交通機関の利用を促すことで、環境面やエネルギー相場の需要抑制に貢献していると考えられる。

 国土交通省によれば、鉄道における二酸化炭素の排出量は、自家用車と比較しておよそ5分の1と小さく、効率的だ。

 9ユーロチケットによる赤字部分の穴埋めはドイツ政府からの補助金で賄われることになるが、これらの効果を踏まえると景気刺激と環境対策の両面でコストパフォーマンスの良い施策となりそうだ。

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