似たり寄ったり? 社外取締役の提言が「どこも同じ」になってしまう理由役員改革が始まった(1/2 ページ)

» 2022年07月13日 07時00分 公開
[柴田彰ITmedia]

 長きにわたった役員改革に関する連載の最終回です。第1回から、早くも1年に近い月日が経過しました。その間も、日本企業の役員改革の有りようは刻々と変わっています。いまだ形式対応の域を出ない企業も少なくはありませんが、コーポレートガバナンスコードへの対応という文脈から、取締役の改革は着々と進んでいるように見えます。このことは、コーポレートガバナンスの改訂が行われたときから、ある程度の既定路線だったといえるでしょう。

 その一方で、この1年の間に日本企業を取り巻く経営環境には、決して軽視できない変化が起こってきました。その一つはサステナビリティに対する世論の高まりです。国連が主導するSDGsやESG、ダボス会議で主題となったステークホルダー資本主義などが契機となり、日本でもサステナビリティへの興味、関心が高まっています。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 また、このような世界的な動きを受け、日本では経済産業省が主導し、非財務情報の開示や人的資本経営を推し進めようとしています。これらサステナビリティに関する大きなうねりを、企業側も無視できなくなっています。

 社外取締役は、企業の中長期的な価値の維持と向上に向けて、これまで以上に責務を果たしていくことが求められてきます。これこそが取締役の本来の役割ともいえますが、現時点で、その責務を十分に果たせている社外取締役がどれだけいるでしょうか。

 監督サイドである取締役と同様に、執行サイドもサステナビリティ−の問題を軽視するわけにはいかなくなっています。中長期的な成長や株主価値を表す経営指標を計画の中に取り込むといった外形的な対応だけはなく、あらゆるステークホルダーを意識しつつ、継続的に企業価値を高める経営執行の体制へと体質改善しなければなりません。

 この最終回では前編・中編・後編にわたり、経営環境の変化を受け、社外取締役と執行側の役員(本稿では便宜的に執行役員と呼びます)の周辺で起こっているリアルな実情をお伝えすることで、役員改革の総括としたいと思います。

似たり寄ったり? 社外取締役の提言

 ここでは、コーポレートガバナンスを巡る議論の象徴的な存在といえる、指名と報酬の両委員会にスポットライトを当てて、社外取締役が抱える悩みについて見ていきます。

 「ESGの実践度合を評価すべきではないか」「株式報酬の比率をもっと高めるべきではないか」。大企業の報酬委員会(報酬委員会に相当する任意の各種委員会も含む)において、委員となっている社外取締役からよく提言される内容です。筆者の経験では、表現の仕方は違っているとしても、この種の提言を社外取締役の口から聞かない企業はないといってもよいくらいです。

 確かに、世の流れやトレンドを意識した場合、決して間違った意見でないことは確かです。その一方で、これらはどんな企業にも当てはまる問題意識であることも事実です。先に書いたような一般的かつ汎用的な内容だけに止まらず、社外取締役がその企業の独自性を踏まえた提言も行っていればよいのですが、大半はそこまで踏み込めていない場合が多いと感じられます。

 企業価値の高め方は、各社各様なはずです。ところが、社外取締役の監督の視点はどんな企業でも一様になってしまっています。そこに日本における社外取締役の課題が端的に表れているといえます。どんな課題でしょうか。

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