温泉でよく見るマッサージチェア トップシェアを勝ち得た企業がたどった「民事再生からの復活劇」あんま王の挑戦【前編】(2/4 ページ)

» 2022年07月22日 06時00分 公開
[秋山未里ITmedia]

「業務用に特化」で他社と差別化 

 それは、「業務用に特化したマッサージチェアを作れば、他社と差別化できて売れるのではないか」というアイデアだ。

 実は、コイン式のマッサージチェアのほとんどは家庭用のマッサージチェアと同じ機種が置いてある。それには、コイン式マッサージチェアの歴史が深く関わっている。

 30年ほど前まで、家庭用のマッサージチェアの主な売り方は実演販売だった。健康ランドなどの施設にマシンを設置し、販売員がお客に無料体験を促して営業をしていた。しかし、次第に大型の家電量販店やテレビショッピングの台頭により、割高な実演販売は苦境に立たされた。販売員を現地に派遣するコストが見合わなくなり、無人化の方法として多くの販売代理店がコインタイマーを設置。コイン式のマッサージチェアが増えていったのだ。

 日本メディックの前身企業も、こうしたマッサージチェアの販売代理店からコイン式のビジネスへと切り替えた企業の一つだった。そのため、多くの家庭用マッサージチェアを全国の施設に設置して営業をしていた。

 11年当時、こうした代理店の多くは従来の家庭向けのマッサージチェア販売ではなく、すでにコイン式ビジネスで主な売り上げを立てていた。であれば、業務用に特化したチェアを作れば導入につながり、業界構造を変えられるのではないかと、城田会長はひらめいたのだ。

 「業務用に特化したマシンを作り、分割払いで販売すれば、全国の私どもと同じ商売をしている企業は間違いなく買ってくれるだろうと考えました。どういうデザイン・機能のチェアが好まれるかというのはこれまでの肌感覚で分かっていました。家庭用商品にない豪華さと便利さがあれば『他社の機械よりもコインが入る』ということで乗り換えていただけるだろうと思い、思い切って作ってみることにしました」

日本メディックの城田裕之会長

「相談に乗ってくれる会社がない」 苦しみながらも、開発へ

 ただし、構想だけあっても絵に描いた餅だ。実際の開発に結び付けるまでには多くの苦労があったという。

 「民事再生中の身で、なかなか開発の相談に乗ってくれる会社もありませんでした。一緒にパートナーとして動いてくれる工場が見つからず、本当に厳しかったです。仕方ないのですが……」と城田会長は話す。

 マッサージチェアの製造にあたっては、医療機器の製造販売業として認可がある企業の協力が必要だったが、マッサージチェアを製造していた企業には取り合ってもらえなかった。そんな中、新しい商材を探していた温熱治療器メーカーと意気投合し、開発に取り組めることになった。

 それからは、「みんなが背中の皮がむけるぐらい、機械に乗りまくりました」と笑う。全ての内製は難しいため、ベースとなるOEM先を選定。その後はマッサージチェアの設置・運用を担う代理店のメンテナンスのしやすさと、顧客体験の双方を考えた改良を重ねた。

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