THE MATCH 2022が示したPPVビジネス成功の条件  日本のエンタメを変えるか経済アナリストが分析(3/5 ページ)

» 2022年08月16日 05時00分 公開
[森永康平ITmedia]

コロナが追い風になった?

 村田諒太、井上尚弥、那須川天心・武尊といった日本人の格闘家が、PPVが日本でもビジネスになることを次々に証明していった。9月25日に予定されている元ボクシング5階級制覇王者フロイド・メイウェザーと朝倉未来のエキシビションマッチの結果を受けて、日本におけるPPVの可能性が、さらに確かなものだと確信させられることになるだろう。

 筆者はこのPPVビジネスの破竹の勢いにはコロナが大きな追い風になったという仮説をもっている。しかも、コロナは2つの意味で追い風になったと考える。

 まず1つ目の追い風は消費行動の変化だ。インプレス総合研究所が発表したデータによると、22年の有料動画配信サービスの利用率(3カ月より以前の利用者も含める)は36.3%だった。コロナ前の19年は22.9%だったことを考えると、コロナ禍での緊急事態宣言や外出自粛要請などにより「おうち時間」が増え、いわゆる巣ごもり需要が発生したと考えられる。外出して飲食や娯楽にお金を使う機会が減った代わりに、お金を払ってでも自宅で動画配信を楽しもうとする人が増えたのだろう。

 しかも、コロナ禍が数カ月どころか、2年以上という長期間にわたったことによって、この新たな消費行動が定着したことも大きい。この現象は日本だけでなく世界的にも確認されていて、ネットフリックスだけでなく、ディズニープラス、パラマウント・グローバル傘下のParamount+(パラマウントプラス)、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが運営するHBO Max、Hulu、スポーツ専門のストリーミングサービスESPN+など、あらゆる有料動画配信サービスがコロナ禍で会員数を増加させた。

 コロナ禍によって、お金を払って良質な動画コンテンツを視聴する文化が定着したからこそ、22年の格闘技PPVが盛り上がったといえよう。

 もう1つのコロナが起こした追い風は入国制限によるものだ。格闘技の醍醐味といえばKOシーンにあるとされる。しかし、日本人は井上尚弥、那須川天心、武尊など体格的に中軽量級にスター選手が多く、重量級選手に比べると、どうしても試合の迫力が弱くなってしまう。そこで、地上波で放映される格闘技の大会では重量級の外国人選手が多くの対戦カードを占めることが多かった。

photo 那須川天心

 筆者が高校生、大学生の時はまさに日本の格闘技ブーム真っ盛りで、やはりメインを張るのはエメリヤーエンコ・ヒョードル、ジェロム・レ・バンナ、ミルコ・クロコップなど海外のヘビー級選手ばかりだった。

 しかし、この2年以上はコロナの感染拡大防止策として入国制限がされたことで、どうしても対戦カードは日本人選手だけで組まれることが多い。しかし、各選手がYouTubeやTwitter、インスタグラムなどのSNSを活用しながら、時にはトラッシュトークのような演出もすることで、入念に試合当日までのストーリー構築をした。こうして日本人選手だけのイベントとなっても十分に盛り上がる仕組み作りがされていったのだ。

 実際にYogibo presents THE MATCH 2022で組まれた全15カードは、ほとんどの試合が日本人選手同士の試合だった。しかし、どの試合も盛り上がり、メインカード前の2試合(海人・野杁正明、原口健飛・山崎秀晃)はK-1、RISE、シュートボクシングという団体の垣根を超えた熱い試合となった。これは入国制限によって外国人選手がなかなか来日できない逆境をバネに日本人選手と競技団体が多様な手段を使って格闘技を盛り上げ続けてきた結果といえよう。

photo 野杁正明(左)と海人
photo 山崎秀晃(左)と原口健飛

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