THE MATCH 2022が示したPPVビジネス成功の条件  日本のエンタメを変えるか経済アナリストが分析(1/5 ページ)

» 2022年08月16日 05時00分 公開
[森永康平ITmedia]

 6月19日、東京ドームで「Yogibo presents THE MATCH 2022」が開催された。“世紀の一戦“と謳(うた)われた那須川天心と武尊のメインカードを5万6399人の観衆が堪能した(以下、敬称略)。コロナ禍で開催された国内のスポーツイベントで、観客の動員が5万人を超えたのは同月6日のサッカー親善試合(日本―ブラジル戦)と、2021年12月に開かれたサッカー天皇杯決勝(浦和―大分戦)に続いて3度目のことだ。

 Yogibo presents THE MATCH 2022が特異なのは動員数だけではない。用意されたシートは最も高いVVIP1列席で300万円、最も安いA席で1万5000円だった。しかし、この料金設定でも前述の通り5万人以上の動員を実現したのだ。さらに1放送ごとに課金をして視聴権を得るPPV(ペイパービュー)は50万件を超えたという。

 チケット収入、PPV収入にスポンサー収益やグッズ収益なども加えれば、一晩で50億円以上を稼ぎ出した興行になったとうわさされている。今回の成功が日本のエンタメ業界をどのように変えていくのか。経済アナリストの筆者、森永康平が分析する。

photo Yogibo presents THE MATCH 2022はチケット収入、PPV収入にスポンサー収益やグッズ収益なども加えれば、一晩で50億円以上を稼ぎ出した興行になったとうわさされている(以下クレジットのない写真は(C)THE MATCH 2022)

スポーツ業界で浸透したPPV

 日本ではスポーツ観戦といえば現地に足を運ぶか、家で地上波の放送を観戦するかが、ほぼ主流だった。だが、地上波の放送に代わる手段としてPPVの可能性が、いよいよ確実なものになっている。PPVとは名前の通り、放送をみるために都度課金するコンテンツを指す。PPVはスポーツ大国の米国では、すでに市民権を得ている。一方の日本では、多くの人が地上波での無料放送に慣れている現状があった。

 しかし22年は、日本でもPPVが十分にビジネスとして確立することが、複数回にわたって実証された形だ。しかも、実証したのが野球やサッカーといった国民的スポーツではなく、ボクシングやキックボクシングだったのだから興味深い。1例目はAmazon Prime Videoで4月に放送された村田諒太とゲンナジー・ゴロフキンによるボクシング・ミドル級王座統一戦だ。

photo 「ゲンナジー・ゴロフキン vs 村田諒太」(アイティメディア撮影)

 骨格的に日本人が活躍しづらいといわれるボクシングの重量級で、日本人ボクサーとして竹原慎二以来2人目のミドル級世界王者となり、オリンピックの金メダリストでもある村田諒太が、生ける伝説GGG(トリプルジー)ことゴロフキンと世界戦をした。

 格闘技ファンの筆者からすれば課金をしてでも放送を見たい人が殺到するのは十分に理解できる。一方、日本でのボクシング人気はそれほど高くない部分もある。そのため、どれぐらい盛り上がるのか、興行としての結果に興味をもっていた。

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