THE MATCH 2022が示したPPVビジネス成功の条件  日本のエンタメを変えるか経済アナリストが分析(4/5 ページ)

» 2022年08月16日 05時00分 公開
[森永康平ITmedia]

業界が抱える2つの課題

 野球やサッカーに比べれば日本での格闘技人気は現状、高くない。しかし、PPVで、これだけの成功を残した。これは格闘技ファンにとっては非常に喜ばしいものだ。ただ、手放しで喜ぶにはまだ早い。

 格闘技業界は大きく2つの課題を残している。1つ目はPPVが地上波での放映に取って代わることによって将来のスターが誕生しにくくなる可能性だ。これまでみてきたように、22年の結果だけを考えれば、格闘技業界でのPPVビジネスは十分に成立する可能性は高いだろう。

 一方、地上波で生放映されないということは、格闘技に興味を持つ子どもが増えない可能性も意味している。Yogibo presents THE MATCH 2022の地上波生放映を、那須川天心、武尊ともに最後まで希望していたが、その理由の1つはこの課題意識だろう。特に那須川天心は地上波での放映がなくなると「お金の為じゃねえんだよ 未来の為にやってんだよ 子供達はどうすんだよ」とツイートした。1席300万円の高額チケットについても「ちょっと子どもにやさしくないな」と嘆いていた。

 格闘技には興味がなかったものの、家で親がテレビで格闘技をよく見ていたから、徐々に興味を持ち始め、柔道部や空手部に入った人も少なくないだろう。いま現役でプロの格闘家として活動している人の多くも、テレビがきっかけだったという人は多いはずだ。しかし、地上波での放映がなくなれば、格闘技を始めようとするキッカケがほぼ失われてしまう可能性がある。

 野球やサッカーと違って、小学校の部活動に格闘技があるケースはまれだ。幼少期から始めなければ、必ずしもスターになれないというわけではない。だが、井上尚弥も那須川天心も小学生から競技を始めている。

 2つ目の課題は魅力的なコンテンツを定期的に用意できるか、ということだ。確かに村田諒太、井上尚弥、那須川天心・武尊はPPVを十分に盛り上げた。そして、9月の朝倉未来はこれらに続くだろう。しかし、格闘技は試合に向けた準備や試合後のリカバリーなどの関係で、1年で2〜3回しか試合はできないと一般的にはいわれている。

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