コロナ禍を機に副業解禁を発表する企業が増えました。「副業先での経験が本業でのスキルアップやキャリア形成につながる」「今のスキルを新たなチャレンジに活用できる」などが副業のメリットとして挙げられます。
しかし、本当に副業はこのような理想的な話を実現できる仕組みになっているのでしょうか。上記のメリットが従業員に生じるのは十分に理解できます。一方、会社にはメリットよりも「優秀な人材の流出」というリスクが大きいように感じます。もちろん、機密情報の流出などもリスクとしてありますが、今回は人材流出の観点から副業を考察していきます。
多くの職業紹介会社が、副業紹介のビジネスに乗り出しました。その仕組みは、副業を探している人に対して、メールアドレスの登録をさせ、メールを利用して情報を発信し、副業先とのマッチングを図るというものです。
注意点はメールを連絡手段に使用していることです。単に副業の求人広告を見て、それに応募するという形式ではなく、一旦登録をすると、紹介会社から次々副業の案内が届きます。その結果、副業にとどまらず、転職が増加する可能性は高くなり、それによって優秀な人材の流出につながることが予想されます。このような見方をするのは、次のような理由があるからです。
筆者の知人である職業紹介会社の社長から直接聞いた話です。
「若手社員の転職率が高くなっている理由の一つに転職紹介メールの配信があると思う。就職活動を機に多くの学生が職業紹介会社に個人情報を登録する。職業紹介会社は、学生が登録したメールアドレスに就職情報を流し、就職活動をサポートする。学校を卒業して就職した時に学生側がメールアドレスの登録を解除すれば、職業紹介会社からのメールは途絶えるが、そのままにしている人も多い。そこを狙って、入社後に転職紹介のメールを打ち続けている。やがて今の会社に疑問を持つ人も出てくる。中には転職紹介のメールがきっかけで転職が成立するケースもある。これが第二新卒の実態だ。
長い人生を考えると、全ての転職が良いとは限らない。このメール作戦にも疑問を持っている。しかし、職業紹介会社として売り上げを上げなければならず、ビジネスチャンスを生かさなければならない。この狭間で悩んでいる」
厚生労働省が2020年に実施した調査によると、新規大卒就職者の3年以内の離職率は31.2%でした。現状の転職は憲法が保障している「職業選択の自由」によるものではなく、職業紹介会社の存在が少なからず関係していると推測できます。
副業を求めている人に登録をさせて、そのメールアドレスに次から次へとメールを送る構造は若手社員の離職率を高めたと思われるメール戦略の仕組みと同様です。したがって、副業先の紹介にとどまらず、転職に発展するケースが発生すると考えるわけです。このことは、副業を許可するに当たって、会社が注意しなければならない重要事項の一つといえるでしょう。
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