現代から戦時中に転生──iPhoneで撮影した戦争ドラマ「セイコグラム」が話題 NHKが“タテ型撮影”にこだわった理由(2/4 ページ)

» 2022年08月15日 11時26分 公開
[樋口隆充ITmedia]

地上波放映番組をインスタでも無料配信

 番組の特徴が、地上波で放送したドラマを、インスタでも無料視聴できる点だ。NHKにとって、インスタでのドラマ配信は、「ロッパグラム 転生したら戦時中の喜劇王だった」(21年12月28日放送)に続く2作品目。同作品でも、セイコグラム同様、若年層に人気の俳優・満島真之介さんが、“昭和の喜劇王”古川ロッパさんに転生したという設定だった。

photo 「ロッパグラム 転生したら戦時中の喜劇王だった」

 最近こそ、番組の見逃し配信などネット視聴が一般的になったものの、地上波での番組放送がメインだったテレビ業界で、NHKが行った、番組の本編をインスタで配信する試みは注目を集めた。1作品目の反響があったとして、NHKは2作品目を、戦争ドラマの王道ともいえる終戦記念日に絡めて制作することとした。

 放送法などで「公共放送」としての役割が決められているNHKにとって、番組のインスタ放映に問題はないのだろうか。NHK広報は「NHKインターネット活用業務実施基準に基づいて、番組の理解増進情報(番組の周知・ 広報に資する情報や番組内容を解説・補足する情報)の提供と位置付けている」とし、問題はないとの見解を示した。

iPhoneとSONY「FX3」での“タテ型”撮影 スマホ視聴に特化

 撮影機材には、iPhoneと、SONYの小型シネマカメラ「FX3」を採用。FX3は、ミラーレス一眼カメラ同等の小型サイズでありながら、業務用のシネマカメラの機能を備えているとして、ガジェット系のYouTuberを中心に、撮影機材として高い支持を集める人気機種だ。フィルターを入れ、撮影することで現実感をなくす工夫も施した。

photo ソニーの小型シネマカメラ「FX3」(出典:同社公式Webサイト)

 ドラマの主人公が転生先で、スマホで記録したものという設定のため、iPhoneでの自撮りシーン以外はFX3を縦型に設置して全編を撮影した。近年、スマホで動画を視聴する文化が定着するとともに、縦構図で撮影した動画コンテンツが増加しているためだ。

 NHK「クローズアップ現代」では、脳科学実験の結果、縦型動画は「視線が画面の中で散らばらず集中」「脳の血流が活発になる」などの効果があると紹介(5月31日放送)。一例として、家族の日常を投稿するYouTuberが、従来の横構図の動画を縦構図に変更したところ、2600回の再生数が100万回に達したともしていた。

 配信先のインスタでも“タテ型視聴”が前提になっている点も決め手となった。NHKは撮影手法について「インスタグラムでの発信ということも考えると、縦型であるのは必然だと考えている」としている。

インスタ投稿では一覧性意識

 インスタでの投稿にも、工夫を施した。特に意識したのが、閲覧時の視認性だ。閲覧者が投稿一覧を見た際に、視認性を高められるよう、横一列を全面に使った投稿に注力した。他にも「ドラマ制作の裏側も追体験できるよう、撮影現場のオフショットも入れ、触れやすさ、現代の若年層との『つながり』を意識している」(広報)という。

photo セイコグラムの公式Instagramアカウント

 NHKは番組制作について「戦争の体験について『どうしたら若い人たちに関心をもってもらえるか』と考えたとき、その世代が普段使っているデバイスでタッチポイントを作り、戦争体験に触れてもらうというのが企画の始まりだった」と説明。「自分たちの世代の俳優が転生し、スマホで当時の様子を記録していく、インスタグラムでも見れるということで、若い世代の人にも少しでも『自分事』として感じてもらい、戦争についてもっと知りたい、と思っていただける若い世代が増えることを願っている」と話している。反響次第で、第3弾の制作も検討するという。

 インスタでは記事執筆時点(8月14日午後5時時点)で5話分を配信中。地上波では終戦記念日の8月15日、午後11時に放送される予定だ。

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