8月15日、77回目の終戦記念日を迎えた。軍人・民間人合わせて300万人以上の日本人が亡くなった先の大戦に日本国中が思いをはせる中、今現在も戦争や紛争、民族間対立が世界中で続いている。
その代表例がロシアとウクライナで勃発中の戦争(ウクライナ戦争)だ。親欧米路線とNATO(北大西洋条約機構)加盟に反発し、2月24日、ロシアは同国への軍事侵攻を開始。開戦から約半年が経過したものの、いまだ収束の兆しが見えず、戦況が泥沼化している。
そんなウクライナの惨状を、テクノロジーと市民の力によって記録し、後世に残そうとする取り組みがTwitterを中心に注目を集めている。衛星画像と、大量の写真を合成して3DCGモデルを作成する「フォトグラメトリー」を活用した「ウクライナ衛星画像マップ」プロジェクトだ。Twitterで公開された3Dモデルに対しては「涙が止まらない」「悲しくなる」「こんなことでこの技術を活用することが残念」などの反応があった。
中心人物の1人は、東京大学大学院の渡邉英徳教授。家庭用ゲーム機「PlayStation」シリーズを手掛けるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のゲームデザイナー出身という異色の経歴を持つ。渡邊教授にプロジェクト開始の経緯や狙いなどを聞いた。
同プロジェクトでは米マクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)やブラックスカイ(BlackSky)などの企業が、自社衛星で撮影したウクライナ周辺の衛星画像を使用。「オープンソース版Google アース」とも呼ばれる、3D地図作成プラットフォーム「Cesium」(セジウム)上に画像を時系列順に貼りつけ、デジタル地図上でウクライナの被害状況を記録するというものだ。
記録手順の大半を手作業が占める。各社がTwitterなどで配信した衛星画像には都市名のみの記載にとどまっており、それ以上の詳細な位置情報は分からない。このため、まずはGoogleマップ上でおおよその位置を推定するところから始まる。
場所が分かったとしても、安心はできない。配信される衛星画像は一部を切り取ったものにすぎず、地図上にピッタリ合わせるためには、画像の回転や歪みを補正する「ジオリファレンス」という作業が必要なためだ。そうして適正化した画像をセジウム上に、パズルのピースのように配置していく。ある程度範囲が限定されているパズルと異なり、ウクライナ全土が対象となっているため、気が遠くなるような作業だ。
こうした取り組みを始めたきっかけは、米プラネット・ラボ(Planet Labs)が従来は有料で提供している衛星画像を、複製・再利用可能な「クリエイティブ・コモンズ」で無償提供していたのを偶然見つけたことだった。
開戦時から「情報が多すぎて、近い過去の出来事ですら記録できてない。流れ去っていく膨大な情報をストックする場所が必要と感じていた」という渡邉教授。そうした時に後にプロジェクトにともに取り組むことになる、青山学院大学地球社会共生学部の古橋大地教授(空間情報が専門)が自身の公式Twitterアカウントで「衛星画像を簡易ジオリファレンスしました」とのツイートを発見した。
以前から交流があった古橋教授の投稿に「ビビッときた」という渡邉教授は、約40分後に「マップに反映した」とリプライした。これがプロジェクトの第一歩だった。
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