当初は各社が配信する衛星画像をメインにした活動だったが、開戦から約半年が経過し、手法も徐々に変化している。きっかけは戦線の停滞だ。ロシアとの関係悪化を懸念したNATOを中心にした欧米各国は軍の派兵など直接的な軍事介入こそしていない一方、携帯用の対戦車用ミサイル「ジャベリン」や高機動ロケット砲システム「HIMARS」など、大量の軍事物資をウクライナ軍に供与している。
最新兵器を手にしたことで、圧倒的不利とみられていたウクライナ軍が徐々に盛り返し、戦線が膠着し始めた。この状況は、侵略されたウクライナ側にとってはプラスに評価し得るものだが、プロジェクトの進捗に影響が生じてきた。
民間企業の衛星画像は、開戦前にロシア軍の戦車隊を捉え、報道を通じて話題になるなど、その威力を発揮していた。しかし、時間の経過とともにロシア軍だけでなく、ウクライナ軍の陣配列などロシア側に有利になる機密情報も含まれていることから、各社が配信数を減らし始めたのだ。
そこで渡邉教授が着目したのが、兵器の使用などで発生する「熱」だった。NASA(米航空宇宙局)が公開している熱源検出スポットの公開サービス「NASA FIRMS」(Fire Information for Resource Management System)からデータを取得。従来は人里離れた山奥で発生した山火事などに迅速に対応するために公開しているサービスだが、ウクライナ国内で発生した火災状況を追うことで、被害を受けた場所を推定することができた。
これに、「合成開口レーダ」(SAR)という技術も組み合わせた。悪天候の期間が長く、雲に覆われることが多いウクライナ。雲量が多いと、衛星画像が撮影できず、火災画像も検出しにくい。
SARは、宇宙空間の人工衛星から地表にマイクロ波を照射し、反射された電波の強さから、対象物の大きさや表面の性質や凹凸を計測する技術だ。公開されているSARの画像からウクライナ国内の建造物や道路などの状況を読み取ることで、被害状況を推定するという試みだ。
実際、SAR活用によって、激戦が報じられたウクライナ南東部の都市マリウポリのアゾフタリ製鉄所などで、崩落した屋根などの被害状況を可視化することに成功した。渡邉教授は「何度も壁にぶつかったが、試行錯誤し、もがく中で確立できた手法」と振り返る。
最近ではNECから提供された国産の人工衛星「ASNARO-2」のSARデータを用いた解析も始めている。
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