5月以降になると、プロジェクトに別の視点が入り始めた。それは3Dデータのマッピングだ。これまで衛星画像など上空からの情報に依存しており、セジウム上の情報も平面的なものばかりだったが、3D化した情報を反映することで、より詳細で実感のある可視化を実現した。
主に使用しているのは3Dモデル共有サイト「Sketchfab」(スケッチファブ)に投稿されたものだ。多くが、現地住民がドローンやiPhoneで撮影したデータを基に作成されたフォトグラメトリだ。
上空からの情報だけでは捉えることができない、集合住宅の地下室など地下施設や、地域の幼稚園などの被害状況を3Dデータとして掲載することで、これまで以上にリアルな記録を実現するとともに、ウクライナの市民をはじめとする世界中の協力者がプロジェクトに“参加”できるようになった。
「衛星画像・SARデータなどは、地上から離れた、安全な場所から撮影したもの。これに対し、フォトグラメトリの3Dデータは現地の方々が、命がけで収録したものだ。こうした素材を組み合わせることでプロジェクトに魂が宿ったように感じる」。渡邉教授はこう語る。
渡邉教授は、別企画として第二次世界大戦にまつわる白黒写真を、AIツールと戦争体験者との対話、当時の資料、SNSで寄せられたコメントなどを活用してカラー化する活動「記憶の解凍」にも取り組んでいる。この活動で培った、自ら当事者にアプローチしていくスタイルはウクライナの可視化プロジェクトでも生かされ、データの各投稿者に直接コンタクトし、掲載の許可を得ていった。
(関連記事:「当時もこんな空だったのかな」──カラー化した原爆写真がネットで反響 AIと人力で戦時中などの写真を色付ける「記憶の解凍」)
活動の中では、現地の有名クリエイターとの出会いもあった。マップ上に反映した複数の3Dモデルを作成した、ハンドルネーム「MrUnity」で活動するウクライナ・ドネツク出身のYaroslav Veprevさんは、若干19歳にしてCGクリエイターとして成功した人物として、現地では良く知られた人物だった。
故郷は激戦地となり、現在は首都キーウに疎開しているとのことだが、メールでの交流は続いているという。こうした思わぬ彼のような出会いも、プロジェクトを続けた意義だといえそうだ。
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