巧みな信念は、巧みな世界を作り出します。下手な信念は、下手な世界を作り出します。曖昧な信念は、曖昧な世界を作り出します。明確な信念は、明確な世界を作り出します。リーダーは常に、部下と目的を共有し、目標と行動を明確化する必要があります。
「誰のために、何のために、いつ、どこで、誰が、何を、どのようにするのか」。それが明確になればなるほど、上司と部下の間の溝が埋まります。
曹洞宗の開祖、道元禅師は「生児現成(しょうにげんじょう)」という人育てについての心得を残されました。親がいなければ子どもは生まれません。しかし子どもが生まれなければ、親もまた親にはなれません。子どもが産まれると同時に親が生まれ、子どもが一年生になると同時に、親もまた一年生になるのです。
子どもは好奇心を持ってあらゆることにチャレンジし、失敗し、失敗から学んで成長していきます。それをドキドキ、ハラハラしながらも、忍耐強く見守ることで親もまた成長します。それを教えたのが「生児現成」。上司と部下の関係も同じです。部下のトライ&エラーを奨励し、忍耐強く見守ることで、上司もまた育つのです。
自分の保身ばかり気にしている上司。誰かに責任を押し付けて、コソコソ逃げ回っている上司。そんな上司を部下が信頼するはずがありません。人は、弱々しい人より、力強い人に惹かれます。人は、おどおどした人より、堂々とした人を信頼します。諸行無常の世の中にあって、経営に絶対はありません。誰もが見えない、不安定な未来に向かっているからこそ、「全てOK」「何が起きても自分が引き受ける」という、堂々たる態度で自ら責任を引き受けようとする上司。そんな上司の姿勢に、人はついて行きたくなるものなのです。
経営者、上司が避けて通れない役割に、「人育て」があります。結論から申し上げると、人を育てることはできません。人は、育てられるのではなく、自分で育つのです。ただしその育ちと方向性については、支えと導きと手入れが必要です。
植物は、陽の光に向かって伸びます。真っ直ぐに伸びる者もあれば、あちこち方向性が定まらず、支えが必要な者もあります。望ましくない方向に枝葉を伸ばせば、手入れも必要となります。
人育ても同じ。部下にとっての太陽は「憧れ」です。経営者、上司、先輩に憧れられる存在があれば、部下は、その憧れに向かって伸びようとします。真っ直ぐ伸びる者もあれば、フラフラと方向性を迷う者もあります。望ましくない方向に伸びる者には、手入れも必要です。いずれにせよ、「人は育てることができない」「人は憧れに向かって育つ」という道理を、いち早く悟ることです。
すると、経営者や上司にとってなすべき努力の方向性が見えてきます。すなわち部下を育てる努力ではなく、自らを育てる努力。自らが憧れられる存在になること。尊敬される存在になること。
管理職に求められるマネジメントには6つあると言われています。目標、人、学び、予算、時間、リスクの6つです。確かにこれら6つは、管理に必要な要素でしょう。それらが本当に管理できるのならば……。
しかし、心静かに考えてみてください。明日何が起きるか分からない時代に、目標や予算やリスクの管理が本当に可能でしょうか。価値観の多様化する時代に、人や学びの管理が本当に可能でしょうか。古今東西、24時間を管理できた人など、本当にいるのでしょうか。
お釈迦さまは、「他を管理」するのではなく「自らを整える」よう説かれました。どんな時代においても、マネジメントできるのは「自分」しかないからです。どんなリーダーであっても、マネジメントできるのは「自分」しかないからです。
そのことを悟った者だけが、真のリーダーとなれるのです。
佛心宗大叢山福厳寺住職。株式会社慈光マネジメント代表取締役。慈光グループ会長。僧名「大愚」は、大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意。駒澤大学、曹洞宗大本山総持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。 僧侶、事業家、作家・講演家、セラピスト、空手家と5つの顔を持ち、「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。
HPにて「お悩み相談」を受け付けているほか、YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」で国内外から寄せられた相談にも対応する。著書『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え』(飛鳥新社)など。
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