攻める総務

ハイブリッドワーク環境のBCPをどのように考えるか?総務のための「オフィス」再考(2/2 ページ)

» 2022年08月18日 07時00分 公開
[金英範ITmedia]
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 社員の働く場所として、以下が考えられます。

(1)本社

(2)サテライトオフィス(自社)

(3)シェアオフィス・コワーキング(サービス会社)

(4)街中ワーク(喫茶店など)

(5)車中ワーク

(6)在宅ワーク

(7)ワーケーション


 このように列挙したらキリがありません。災害が発生した瞬間に、多くの場所で社員が働いているという想定になります。これは結構大変です。

 総務の立場からすると(1)本社のオフィス内に社員がいる場合は、安全確保の責務がありますが、上記の(2)〜(9)に関しては、在宅も含めて安全管理義務は通常発生しないものでした。そもそもそれらの場所は安全管理義務が発生する「職場」という定義に入れていないケースが大半だったのです。総務が社員のための安全管理責任者という発想ではなく、そのようなケースは「それぞれの社員が自ら安全管理責任者になる」という意識付けと、普段からの災害訓練が求められます。

 週に3回も在宅勤務している自宅。災害に遭遇する場となる可能性は相当高くなってきています。在宅勤務を推進している会社の責務として、「自宅に避難用ヘルメットはありますか?」「3日間分の避難食が確保されていますか?」「賞味期限が過ぎていませんか?」というところまで突っ込み、管理と費用を負担することがBCP管理者としての責務となります。総務が責任を負うのは「会社内だけ」という時代は終わりです。

photo 写真:ゲッティイメージズ

 シェアオフィスやワーケーションなどは、総務が契約する際の条件としてBCP基準、安全基準を設ければ対処できます。しかし例えば、従量課金制のコワーキングスペース(全国どこでも利用可能なタイプ)を契約する際には、どの場所でも最低限確保されている安全基準をサービスオーナーと確認する必要が出てきます。

 悲しい事故の原因、例えば「雑居ビルで避難経路が荷物でふさがれている」「スプリンクラーのメンテナンスの不備」などによって、大切な社員が被害に遭う場面は想像したくありません。

 残念な事件が発生したときに、「そんな安全管理ができていないコワーキングスペースを契約したのは誰か?」「それは総務部の●●さんです」──というように責任が発生することにもなりかねません。社員の安全確保という重大な責務があることを認識した上で、総務はオフィス外でのハイブリッドワーク環境整備が必要となってきます。これは感染症のパンデミックにもいえることで、要件に加わります。

 自社で管理可能なサテライトオフィスなどは問題ないにしても、特に在宅、シェアオフィス、ワーケーションに関しては、安全管理上の一定のルール整備と予算確保が必要だと筆者はいろいろなケースを見ていて感じます。

 米ニューヨーク市近辺の企業では、ハイブリッドワーク推進により社員一人当たり年間1万ドル以上の費用を削減できている、というデータがPropmodo調査で明らかになりました。そうして削減した「一人1万3000円/年」(1ドル130円換算)を大切な社員を守るために再投資できないはずがありません。

 一人当たり年間1000円程度の予算があれば、BCPを相当補強できます。ハイブリッドワークによる目先のOPEXコスト削減だけに満足する経営者は、社員を守る一番大切な仕事をしていないことになります。新しいBCP基準作りに着手している先行事例を参考に、同業他社間のベンチマークをしながら、ハイブリッドワークの実情に合わせた戦略的なBCP計画の組み直し、新しい訓練を実施することを筆者はお勧めします。

著者紹介:金英範

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 株式会社 Hite & Co.代表取締役社長。「総務から社員を元気に、会社を元気に!」がモットー。25年以上に渡り、日系・外資系大企業の計7社にて総務・ファシリティマネジメントを実務経験してきた“総務プロ”。

 インハウス業務とサービスプロバイダーの両方の立場から、企業の不動産戦略や社員働き方変化に伴うオフィス変革&再構築を主軸に、独自のイノベーティブな手法でファシリティコストの大幅な削減と同時に社員サービスの向上など、スタートアップから大企業まで幅広く実践してきた。

 JFMAやコアネットなどの業界団体でのリーダーシップ、企業総務部への戦略コンサルティングの実績も持つ。Master of Corporate Real Estate(MCR)認定ファシリティマネジャー、一級建築士の資格を保有。


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