攻める総務

ハイブリッドワーク環境のBCPをどのように考えるか?総務のための「オフィス」再考(1/2 ページ)

» 2022年08月18日 07時00分 公開
[金英範ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 多くの企業がパンデミック対策として導入してきたリモートワーク。その延長線として、在宅に限らずどこでも働けるダイバーシティな働き方を取り入れる会社も増えてきました。Work from Anywhere、スマートワークプロジェクト、どこでもワーク推進プロジェクトなどネーミングはさまざまですが、どこも目的は同じように見受けられます。

 画一的で集団労働的な働き方は消え、より個人の違いを尊重した働き方を企業が探求し、優秀な人材を獲得、生産性を上げるチャレンジをしていく。そのようなダイバーシティな働き方が求められる中で、企業のBCP(事業継続計画)について考えてみます。

photo 企業のBCP(事業継続計画)について考えてみます(写真:ゲッティイメージズ)

 そもそも集団労働を前提としたBCPに慣れ親しんできた企業が、ハイブリッドワークでのBCPをどう考えるのか。明確な基準や答えがない会社が多いのではないでしょうか。オフィスや工場を働く場としていた考え方を拡大し、個々の居場所が多様化した中で、いろんな場面を想定し、シミュレーションや訓練をしなければいけません。

 「最近はやりのABW(Activity Based Working)におけるBCPの考え方は、どのようにしたらいいのですか?」という総務からの質問も増えてきました。そのような素朴な疑問に対して、場当たり的な対応をする前にBCPの基本原則を思い出し、「変わらない部分は何か?」をきちんと問うことを筆者はお勧めしています。

 その上で変わる部分を考えればいいのです。ビジネスにより多少程度の違いはありますが、この原則は同じです。私自身も社内BCP責任者を経験してきましたが、基本的な要素(変わらない部分)には3つのレベルがあります。

  • (1)経営レベルのBCP:企業活動の存続のため
  • (2)管理レベルのBCP:ビジネスの早期再開のため
  • (3)日常業務レベルBCP:中長期的な被害軽減のため

 BCPの上位概念であるBCM(Business Continuity Management)の認証ISO22301では、さらに詳しいマネジメントプロセスがありますが、認証を取得する/しないにかかわらず上記の(1)〜(3)が基本的な考えです。JFMA(日本ファシリティマネジメント推進協会)の公式ガイドブックにも同様の記載があります。BCPの一般的な流れとして図1をご覧ください。

photo 図1:BCPの一般的な流れ=筆者作成

 まず(1)経営レベルのBCPですが、ここではいかなるリスクに対しても経営が存続できるレジリエンス、すぐに元に戻る柔軟性が必要です。

 経営リスクというとブランド毀損(きそん)や風評被害などのリスクからファイナンシャルリスク、訴訟リスクなどさまざまですが、総務が関わるリスクというと、定番は自然災害リスクです。ロケーションによりますが、日本の場合は地震や台風、雷などの天災に加え、感染症(まさに新型コロナがそうです)、テロリズム、電力会社のトラブルなどによる大規模停電などの人災まで含みます。

 このようなリスクに対し最低限の事業継続ができる仕組みをつくることは、集約型のオフィスでもハイブリッドワーク環境でも原則的には同じことです。何が違うかというと、事業が行われる場所が分散していることに他なりません。

 ですが、考えてみたらそれはむしろ好都合なのです。そもそも集約型オフィスの場合はオフィスビルがダウンした際には代替手段がほとんどありません。大きな投資をして、バックアップのオフィスや電源を整備したり、データセンターも複数構えたりするなど、物理的な対処が基本でした。

 それがハイブリッドワーク環境となると、そもそもリスクが分散された環境で業務が行われることになるので(1)は考えやすくなっています。事業によって細かい調整は必要ですが、筆者の感覚ではハイブリッドワークを進めている企業は、既に問題ないレベルに達していると思います。

 次に(2)管理レベルのBCPですが、主眼はビジネスの早期再開です。つまり被害が発生した時点の初動対応(安否確認や被害状況の把握など)、その後の復旧活動がメインとなります。例えば、被害を受けた設備(インフラ)の復旧などです。

 しかしハイブリッドワークでは大半がクラウド上での作業になるので、そもそもクリティカルな基幹インフラを企業自ら保有するケースはまれになってきています。そうした意味ではビジネスの早期復旧に関しては、クラウドベンダーまたは通信事業者に責務が移り、ハード面の負担は限定されます。 

 ということで(1)(2)のBCPは、ハイブリッドワーク環境では以前よりもリスクが低減していることになります。一方、社員の安全安心という観点では、逆に非常に難しい事態となっているのが課題ではないでしょうか。それは(3)日常業務レベルのBCPに他なりません。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.