「急速充電でバッテリー故障」投稿に反響 BEVの正しい充電方法とは? 日産広報に聞いた(3/3 ページ)

» 2022年09月10日 07時00分 公開
[樋口隆充ITmedia]
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BEV普及の課題は航続距離、充電時間、充電場所

 東京都新宿区を起点に距離別にアクセス可能な場所を挙げると、利用方法や使用モードで前後する可能性があるものの、180キロで長野市(長野県)、300キロで仙台市(宮城県)、山形市(山形県)までアクセスでき、静岡市(静岡県)なら往復可能。500キロなら神戸市(兵庫県)、和歌山市(和歌山県)、盛岡市(岩手県)、鳥取市(鳥取県)などに1度の満充電でアクセスできるとみられる。

 日産は自社の公式Webサイトで充電スポットの検索サービスを提供しており、充電器の設置個所を3万基(2021年2月末時点)とPRしている。だが、この数値には急速充電の7950基を含んだ数値のため、バッテリー劣化を防ぐためには、ユーザー側で利用前に普通充電か、急速充電かを確認する必要がありそうだ。

photo 日産が提供中の充電スポット

 これらのことから、BEVが現在、抱える課題が見えてくる。それは長距離移動には適さないという点だ。急速充電を使用しない場合、現状ではフル充電に半日から1日近くかかる車種が多い。例えば、地方への旅行に使用した場合、夕方から充電を始めたとして、翌日利用するには満充電にならないまま、使用することになるケースが予想される。そうなった場合、頻繁に充電する必要があるが、地方は都市部ほど充電設備が充実しておらず、「充電難民」に陥る可能性が高い。

photo 急速充電のイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 トラックなど業務用にBEVを利用する場合も、現状では、近距離での輸送に限られ、長距離輸送への導入は難しいだろう。ECサイトの利用拡大で輸送ニーズが増加傾向にある輸送業界で、フル充電まで半日も車両を待機させておくのは現実的ではないからだ。急速充電を利用したとしても、バッテリーが劣化し、故障した場合は修理費用が別途必要になることから、事業者にとって負担となり、導入に二の足を踏ませる要因となる。

 BEVはガソリン車よりも高価なケースが多い。普及促進には充電時間の短縮、航続距離の拡大、地方での充電場所の拡充が今後の課題になるだろう。日本では火力発電がメインであることを考えると、BEV自体からは二酸化炭素(CO2)が排出されないとはいえ、動力源となる電力の発電時にCO2を排出している点や、ウクライナ情勢の悪化などで、今夏の電力需給がひっ迫した点も見逃せない。

photo 発電時にCO2を排出することが多い火力発電(提供:ゲッティイメージズ)

 一般的に航続距離を伸ばす手法としては、車載バッテリーを大型化することが一例として考えられるが、大型化で車体の重量が増加するほか、フル充電までの待機時間もその分、長くなる傾向にある。このため、自動車各社には充電時間の短縮はもちろんのこと、事情によって急速充電を多用するユーザー向けの手厚いサポートも必要となる。

 これに加え、今回取材した日産は公式Webサイトに「外出先での充電には急速充電が便利」と記載しているのみで、急速充電の弊害を記載していない。自動車各社にはBEVを導入した法人ユーザーなどに対し、バッテリーの適切な充電方法を周知徹底することも今後、求められそうだ。

photo 日産の公式Webサイトの記載
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