案の定というべきだろうか。欧州の自動車メーカーが、EV一辺倒の方針から水素を含めたエンジンの持続性について表立って検討を始めた。そもそもすべてのクルマをEVにするのは、インフラやエネルギー問題を含めて無理がある。
それに何より自国の産業を中国に奪われてしまう、という危機感に、今更気づいたこともありそうだ。EVはエンジン車よりも構造がシンプルで、モーターの制御など新しい分野が重要なため、先進国の自動車メーカーにとってアドバンテージは少ない。
北欧や英国など自動車メーカーが中国資本に買収されてしまった地域は、それほど深刻ではないのかもしれないが、これからの自動車産業界を生き抜いていくメーカーやサプライヤーにとっては深刻な問題だ。
そんな経済面だけでなく、そもそものクルマの販売競争という従来のビジネスモデルからまだ脱却できない自動車メーカーは、他社製品との差別化をどう図っていくかが、模索されている段階であることが目立ってきた。
同じような悩みはモータースポーツ界も抱えている。1990年代までのF1GPは、各チームのマシンがオリジナリティに富み、多彩で魅力にあふれていた。エンジンもフォードDFVだけでなく、自動車メーカーやエンジンメーカーが独自の考えでパワーを絞り出すようなレイアウトを採用し、技術と腕力、そして勇気をもったドライバーがマシンをねじ伏せて走らせる姿に、観客は熱狂した。
しかし設計技術や素材の進化、安全対策によって、マシンは画一化の方向へと進んだ。モータースポーツで速さ強さを追求すると、答えとなるマシンは1つに収束されていく。そして安全性のために速さを抑制するような規則ができれば、エンジニアたちは規則の網の目をくぐり抜けるようにマシンをデザインする、いたちごっこのような展開が続くのだ。
しかしエンジンに関していえば、速さや環境性能は高まっても、観客を惹き付ける魅力は高まっているとは言い難い。
ERS(エネルギー回生システム)や空力特性の改善などで速さは増し、ドライバーのスキルも要求されるが、豊富な情報の分析によりドライバーの差が出にくくなっていることもあって、昔ほどドライバーが神格化されなくなってしまったことも大きいかもしれない。
3リットルのNAエンジンから2.4リットルへとダウングレードされた時から、F1マシンのエンジン音に魅力を感じなくなってきたモータースポーツファンは多いと聞く。エンジンの開発費を抑えるためにエンジン回転数を制限したり、安全性や環境問題を考慮して排気量を縮小することは単純に考えれば、速さや迫力といったモータースポーツの魅力を削減してしまうことになる。
そして現在の1.6リットルターボになってからは、さらにエンジン音が不評となった。そこで排気音を大きくする対策を講じるなど、レースを盛り上げるための対策が目立ってくるようになった。
ラップタイムとしては速さを高めていっても、それだけでは観客を惹きつけることはできない。市街地で開催できるフォーミュラE(電動モーターで走るフォーミュラマシンで競われるレース)も身近さだけでなく、バトルや速さで観客を集めているが、国内外のオーガナイザーはエンジンの持つ魅力に改めて気付かされている。
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