高級車の盗難はどうして防げない? 特定の日本車ばかりが狙われる理由高根英幸 「クルマのミライ」(4/5 ページ)

» 2022年09月19日 14時55分 公開
[高根英幸ITmedia]

CANインベーダーと呼ばれる脅威のデバイス

 このところ自動車盗のトレンド(?)となっているものに、トヨタ系高級車に特殊なデバイスを用いて、ものの数分で盗み出してしまう手口がある。これはCANインベーダーと呼ばれており、モバイルバッテリーのケース内に収められているため、持ち歩いていても怪しまれないという恐ろしいデバイスだ。

 このデバイスをクルマのワイヤーハーネスの末端部分に接続すると、ファイアウォール(電子回路内のセキュリティ)を突破させてドアのアンロックとエンジン始動を可能にしてしまうのである。つまりドアをこじ開けたり、イグニッションの配線を直結するというようなアナログな作業はまったく必要としない。

 むしろセキュリティのハイテク化がクルマ窃盗犯の現場での仕事をより素早く、簡単にしてしまっているのだから、皮肉なものだ。CANインベーダー以外にも、こうしたハイテク機器による盗難の手口は存在していた。

 リレーアタックは、スマートキーの電波を増幅させて、屋内に保管されているキーが近くにいるように誤認識させる方法だ。スマートキーによって電波でドアロックの解錠からエンジンスタートまで行えるようになってしまったことから、この電波を利用することでドアの施錠を解除してエンジンも始動可能にしてしまう。

 ドアをアンロックしてエンジンをスタートさせてしまえば、キーが近くになくても警告音が鳴るだけで走行し続けられることから、クルマを持ち去ってしまうのである。これはスマートキー本体を金属製の缶に入れて保管したり、節電モードにして電波を発信しないようにしておくことで、ある程度防げる。しかし、他にもスマートキーのシステムを利用した盗難方法はある。

 コードグラバーは、スマートキーの電波を解析してコピーを作成してしまうもので、キーの置き場所に関係なく、クルマから発せられる電波で作成できることから、狙われたら防ぐのは難しそうだ。

 こうした技術はクルマ泥棒のためではなく、正当なオーナーがキーを紛失した時などのために開発されたロックスミス(錠前師)のためのものだ。セキュリティシステムはどんなに高度なものであっても、そうした緊急時の解除手段や救出方法を残しておくことは必要なのである。

 こうした技術情報には秘匿義務があるだろうが、エンドユーザーのために利用すれば、色々なルートで漏えいしていくことも避けられないだろう。

韓国のサプライヤー、samboモータースが提案するスマホ利用のセキュリティシステム。スマホの認証を利用したり顔認証や指紋認証を導入しても、その上流や異なる部分から侵入されてロックを解除されれば、まったく意味のないセキュリティシステムになってしまう。クルマのセキュリティシステムを根本から考え直す必要があるのではないだろうか

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