突然だが、10月14日に何をしていたか、ちょっと思い出してみてもらいたい。2022年は平日だったので、多くのビジネスパーソンからは「仕事だよ!」という声が聞こえてきそうである。
1872年のこの日に日本で鉄道が開通したことを、知らずに過ごした人も多かったかもしれない。蒸気機関車が明治天皇や政府の要人らを乗せて新橋〜横浜間を走ったことを記念し、「鉄道の日」として定められている。
鉄道開通から150年後のこの日、「ジョルダン 乗換案内」のSNS担当者は朝から「布団の中でうるうる」していた。別の同社社員はその日の仕事を放り出し、SNSに張り付いていた。
彼らが見ていたのは、鉄道開通150年を記念して公開した「乗換案内1872」の反響である。「150年前の検索、できます」のキャッチコピー通り、1872年の鉄道開業時の運転区間・時刻・運賃で経路検索できるサービスだ。
検索して出てくる路線名は、「陸蒸気(横濱行)」。運賃は上等、中等、下等の3種類あり、それぞれに現代の値段の目安も表示されるという作り込まれっぷりだ。SNSなどでは「当時の様子が分かって面白い!」「気の利いたイベント」と、好意的な反応が多かった。
この企画のリリースまでには、担当者たちの苦労と、そして「うるうる」するほど嬉しかった理由があった。
企業のこうした「お遊び企画」の目的として考えられるのは、やはりサービスの認知向上だ。しかし、提案者の橋浦氏は、「最初はそこまで考えていなかった」と話す。橋浦氏自身も鉄道ファンで、鉄道開通150年を盛り上げたいとの思いから、7月下旬に社内の広報会議で提案した。
ジョルダンは乗換案内サービスを手掛ける企業。鉄道に関心がある社員が多く、賛成の声が多かった。一方で「その企画でどれくらいのアクセス効果が見込めるのか」と質問する人もいた。平常時のサイトの利用人数や鉄道ファンの推計人数などから、10万PVという数字を算出し、説得に用いたという。
橋浦氏によればこれは「正直、ちょっと盛った数字だった」。同社では近年、この手の企画をやっていなかったためだ。「どのくらい盛り上がってもらえるかは予測しづらかった」と振り返る。
しかし、一度だけ前例があった。2006年のエイプリルフールに、ジョルダンで鉄道開通当時の新橋〜横浜の6駅の乗換案内を出せるという企画を実施していたのだ。
当時のソースは残っていることが分かったが、そのままの言語では動かない。時刻のデータなどは以前のものを流用しつつ、基本的には再度実装を目指すことになった。
こうして06年の企画資料や、1872年当時の情報をかき集めているうちに、既に8月の終わりに差し掛かっていた。残り約1カ月半でリリースまでもっていけるのか。やや、不穏な空気が立ちこめる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング