このように東急電鉄はかなりイケイケで田園都市線沿線を開発していた。そのすさまじい熱量や、先見性のあるグランドデザインは現代の東急グループにも脈々と引き継がれ、それが渋谷駅前の大規模再開発事業や、東横線や田園都市線のブランド力の原動力となっているのだ。
そして、こういう「東急のスゴみ」こそが、田園都市線が嫌われる理由でもある。
この極めて計算深く、長期的な視点に基づいた「ゆりかごから墓場まで沿線住民を逃さない」という東急のスマートで洗練された都市計画は、マツコさんのように「人間の醜さや情けなさ」も肯定して生きているような人は鼻につく。『夜の巷を徘徊する』(テレビ朝日系)という番組でマツコさんは「世田谷嫌い」という話題の流れで、こんなことを言っている。
「こんなにいろいろ怖いものなく生きてきた人間が、こんなにビビってる。やっぱり東急電鉄ってすごい、恐ろしいものがあるわよ」
これはなんとなく分かるという人も多いのではないか。東京の東側、川のほとりの雑多な街で育った筆者も大学生のとき、二子玉川やたまプラーザを初めて訪ねたところ、何か得体のしれない恐怖を感じた。
自分が住んでいるところにはなかった、きれいに区画された街や商業施設があって、駅前にはセットでいると思っていたホームレスの人や、道を違法占拠して営業する掘っ建て小屋のような店もない。歩いている人たちのおしゃれ具合や、鼻にかけた感じもなんだか薄気味悪かった。
東急電鉄という鉄道会社が執念で築き上げた人工的な街と、そこで幸せそうに暮らす人々が、自分の生活圏とあまりにもギャップがありすぎて戸惑うとともに、あらゆるものに「つくられた感」があって、自分が育った総武線沿線のカオスな感じとまったく違う世界がある、とビビったのをよく覚えている。
だから、ぶっちゃけてしまうと、マツコさんをはじめ田園都市線を叩く人たちの気持ちはよく分かるのだ。
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