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「社員を束縛」してきた日本企業 少子化時代のあるべき採用の形とは?内定辞退者を中途採用(3/4 ページ)

» 2022年10月27日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

間口拡大がマイナスに作用する恐れも

 例えば、内定受諾の辞退者に中途採用の優遇枠を用意する取り組みなども、内定の受諾前の辞退者に対象者を絞っているだけに、運用の仕方次第では内定受諾後に辞退しづらくさせるための施策となりえます。

 会社とすれば、内定を受諾したからには確実に入社してほしいのが本音です。もし内定の受諾後に辞退されてしまうと、入社後の準備や配属先などの算段が狂うのはもちろん、新たな人員を再度募集する手間や費用も生じます。

 そこで内定受諾前の辞退者を優遇すれば、その時点で他の志望先の選考を進めるか否か判断する「踏み絵」にすることができます。優遇枠を蹴る覚悟を突きつけることは、内定受諾者にとって少なからずプレッシャーになるからです。中には、そんなプレッシャーも意に介さず他社の選考を受け続ける図太い学生もいるかもしれませんが、他に希望する会社があっても遠慮の気持ちが生まれ、就活が続けづらくなると感じる学生も出てくるはずです。

画像はイメージ

 もし学生が内定の受諾後に翻意した場合に、「だったら優遇枠を用意していた内定受諾前に断るべきだ」と罪悪感に訴えかけたりすると、暗に入社を強制しているのと変わりません。そのように学生の意思を縛りつける効果を期待して運営した場合、意思を飲み込んだ学生側に負け(Lose)を押しつけるWin-Loseの仕組みとなってしまいます。

 同様にアルムナイ制度なども、社員が退職後も会社と良い関係性を保とうとすることが悪い意味での縛りとなって、会社に対する不満があっても本音が言いづらくなってしまうようになると不健全な作用が起きないとも限りません。

退職する社員が会社に抱く3つのパターン

 社員が退職する際に、今の会社に対して抱く思いとしては大きく3パターンあります。1つは会社に対して不満はなく、家庭の事情などでやむなく退職するパターン。逆に、会社に対して強い不満があり、それが改善されない限り二度と戻りたくないパターン。そして最後は、会社に不満を感じつつもそれが理由で退職するわけではなく、戻りたくないとまでは思わないパターン。

 アルムナイ制度があると、退職後も会社と良い関係を保っておきさえすれば将来の保険として復帰も選択肢に入れることができます。1つ目の退職パターンであれば、アルムナイ制度があることで会社と社員の間にはWin-Winの関係が築かれるはずです。2つ目の場合は、アルムナイ制度があったとしても社員の方にはニーズがありません。問題は3つ目のパターンです。

 本当は不満に感じていることを会社に伝えて改善要求した方が良いと思いつつも、将来アルムナイ制度を利用して復帰する可能性を考えると、不満は自分の胸にしまって関係性を保っておいた方が得策という判断になる社員もいるかもしれません。その場合、会社と社員の関係はWin-Loseになってしまいます。

 そんな風に、アルムナイ制度という特典を巡る思惑に社員の意思が縛りつけられる効果を悪用すると、不平不満を抑え込むだけでなく、不正行為を隠蔽(いんぺい)する手段にもなりかねません。

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