クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

マツダCX-60は3.3Lもあるのに、なぜ驚異の燃費を叩き出すのか高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)

» 2022年11月11日 08時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

 つまりディーゼルは、吸い込んだ空気に含まれる酸素をすべて燃やす必要はない。むしろ空気過多で燃焼させて、周囲の空気に熱エネルギーを吸収させて膨張させるほうが、熱損失が少なく効率的なのだ。これはガソリンエンジンにはできない芸当で、あのSKYACTIV-Xでも基本的には燃焼室内の空気を全て燃やすしかなく、スーパーリーンバーン領域での燃焼は軽負荷時に限られてしまっている。

 燃焼の仕組み上、ディーゼルのほうが圧倒的に熱効率が高く、燃費や環境性能を考えると有利なのである。ディーゼルの難点は発進や加速時など高負荷時に燃え残りが黒煙となってしまうことだが、DPF(有害な微粒子物質を除去するフィルター装置)がキチンと機能していれば、黒煙の発生を抑えることはできる。

 トヨタも諦めたディーゼルエンジンの開発(もっともトヨタだけに研究は続けているだろうが)を続けることができたのは、ロータリーエンジンを開発してきた「マツダの諦めの悪さ」からなのかもしれない。今回のディーゼルエンジンを見るに、いよいよ内燃機関も完熟の域に近付いたという感がある。

 CX-60に搭載された直列6気筒ディーゼルは、ピストン頂部に設けられた燃焼室が2段階に窪んでおり、ピストンの下降によって燃料の噴射位置が変わることを利用して、理想的な燃焼状態をつくり上げるという。

 燃焼の理想を突き詰めた結果、たどり着いた1つの完成形とも言えるのが、今回の直6ディーゼルなのである。

 2.2Lの4気筒ディーゼルを搭載し、より軽量なCX-5(FF・ATのWLTCモード17.4km/L)よりも燃費性能に優れる(FR・ATのWLTCモード19.8km/L)のは、8速ATを採用したことも影響しているが、より排気量を大きくして熱損失を減らしていることが最大の要因なのである。

 したがって排気量とは単にシリンダー容積のことであり、実際には税法上の問題だけなのだ。それだけにSCR触媒の搭載を義務化している米国や、EVへのシフトが顕著な欧州では、販売することが難しいのが何とももどかしいところだ。ディーゼルエンジンで不正を行った自動車メーカーたちに、改めて恨み節を聞かせたいところである。

マツダCX-60の燃焼メカニズムのトピックとなるDCPCI(空間制御予混合燃焼)と、トルク特性の図。ピストンが上死点(一番上に上がり切った状態)に近い場所で1度目の燃焼のための噴射を行い、やや下がった状態で2度目の噴射を行なうことで火炎を制御する。この右図ではガソリンエンジンとの比較になっているが、2.2Lディーゼルと比べ1.5倍の排気量アップながらトルクの増大は24%にとどめ、燃費と排ガスのクリーンさに性能を振っていることが明らかになっている(出典:マツダ)

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