「サクマ式ドロップス」製造元が廃業に追い込まれた、これだけの理由スピン経済の歩き方(2/7 ページ)

» 2022年11月15日 09時46分 公開
[窪田順生ITmedia]

お菓子がダメなら薬で

 なぜ筆者がそのように考えるのかというと、実は今から35年以上前、佐久間製菓は「今の商売を続けていてもジリ貧だ」ということで、経営の根本から見直す大きな改革に手をつけているからだ。それがうかがえるのが、以下の新聞記事だ。

 「佐久間、お菓子がダメなら薬で――殺菌ドロップ生産再開」(日経産業新聞 1984年8月20日)

 「佐久間製菓――医薬・健康志向品に参入」(同上1986年12月23日)

 実はキャンディーの販売が落ち込んでいたのは、今に始まった話ではない。80年代は子どもの数はまだ増えていたものの、メーカーが乱立して菓子のバリエーションが一気に増えたことで、高度経済成長期ほど市場が成長しなくなっていたのだ。そこで、佐久間製菓の横倉千穂社長(当時)が「生き残る」ために決断したのが、「医薬品」と「健康志向品」への参入だった。

戦前の缶(出典:佐久間製菓)
2007年、実写映画『火垂るの墓』参画(出典:佐久間製菓)

 まず工場内に新たに製造ラインを増設して注力したのが、「サクマロン」という口の中を殺菌、消毒するという医薬品ドロップだ。実は同社は1962年に「佐久間の咳止めボンボン」を開発して、三共製薬から販売するなど医薬品製造の実績があった。この「サクマロン」も67年には既に開発していて厚生労働省の認可も受けていた。

 この「強み」を生かしてもうひとつの「新たな柱」としようとしていたのが、「医薬品と菓子の中間的な商材」だという健康志向品だ。ハーブエキス入りの「サクマ式ハーブドロップス」を発売したほか、「国内の大手医薬品メーカー三社にOEM(相手先ブランドでの生産)供給をするなど医薬品業種とのジョイントを着々と進めている」(同紙)とメディアからも「菓子から医薬品へ」という転身が注目されていた。

 この大胆な経営改革を進めた横倉社長は、「サクマ式ドロップス」などの菓子が8割を占めている売上構成比率を変えて、菓子分野を7割まで落とすと宣言。医薬品や健康志向品を拡大して、3年後に年商50億円まで伸ばすと気を吐いていた。

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