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DX人材の活躍の場はどこに? リスキリングだけでは賃上げが実現しない理由人材投資をムダにしないために(2/4 ページ)

» 2022年11月17日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 リスキリングとは、新しい仕事に就くためや、新しい時代に求められるスキルの変換に対応するための学び直しを意味します。一方、いま就いている仕事の能力を上げる学び直しについてはアップスキリング(upskilling)と呼ばれますが、昨今の課題となっているDXやGX、AIなどの学び直しは、新しい仕事に就く場合といま就いている仕事の能力を上げる場合のどちらにおいても必要とされています。

 そのため、ここからはリスキリングもアップスキリングも含め、時代変化への適応を目的とする知識とスキルの習得という意味合いで“学び直し”と表現したいと思います。

「学び直し」で賃上げは実現できる?

 技術革新が目まぐるしく進む中で、学び直しによって新しい知識や技能を習得することは重要なことです。ただ本当に、学び直しで賃上げは実現できるのでしょうか。先ほど示した5つの賃上げパターンに照らし合わせて、考察したいと思います。

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 まず1つ目に挙げた、ベースアップや定期昇給、最低賃金などについて。これらは労働者全体の賃金水準を引き上げるものです。毎年交渉が行われてはいますが、学び直ししたか否かで個々の労働者の賃上げを交渉するわけではなく、学び直しの推進が直接的に影響を及ぼすとは言えません。

 それに対し、2つ目と3つ目に挙げた人事考課による職能レベル上昇と昇進については、個々の労働者の学び直しが考慮される可能性があります。例えば、会社が指定した知識や技能を学び直しで習得した場合は職能等級を上げる、あるいは昇進の条件にするといった形で人事制度と紐(ひも)づけることになれば、学び直しの推進が賃上げと連動していきます。

 それに対し、4つ目の成果連動パターンについては、学び直しても、それによって何らかの成果が生み出されなければ賃金は上がりません。学び直ししたかどうかではなく、学び直しが成果向上にまでつながって初めて賃上げが実現します。

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 同様に、5つ目に挙げた転職についても学び直ししただけでは賃上げにつながるかどうか分かりません。転職先の賃金水準が高い場合は、学び直しに関係なく賃金が上がります。学び直しが賃上げにつながるのは、人材としての市場価値が高まった場合です。しかし、転職の際に、実務経験も実績もないのに習得した知識や技能だけで評価されて市場価値が高まるのは、弁護士や税理士資格を取得するような特別なケースに限られます。

 仮に学び直しでAIに関する知識や技能を学んだとしても、その習得水準はまちまちです。AIの専門家として認められるほど技能を習得するのは極めて難易度が高く、もしある程度専門性を磨くことができた場合でも、賃金アップを伴う転職を実現させるには大抵の場合、実務経験や実績が問われます。

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