このように確認していくと、学び直しを推進するだけで賃上げにつながるケースとして考えられるのは、2つ目と3つ目に挙げた職能レベルの上昇と昇進の場合になります。
ただこれらの場合、もともとは学び直しをしなくても職能レベルを上げたり昇進したりできたのであれば、学び直しを条件に加えることによって、かえって賃上げのハードルを高くしてしまう可能性もあります。そうなると、学び直しを推進すれば確実に賃上げが実現できるとか、賃金が上がりやすくなると言えるほど楽観的に考えられるものではないことが見えてきます。
過去を振り返ると、これまでも急激な環境変化に適応するために職場で学び直しが必要とされてきた場面は幾度もありました。直近であればコロナ禍で出社がままならなくなり、職場にてZoomやMicrosoft Teamsなどのビデオ会議システムを使う知識や技能の必要性が生じましたが、これも時代変化がもたらした、ちょっとした学び直しの例だと言えます。
時代変化に起因する大がかりな学び直しの例としては、Windows95が世の中を席巻し、ワープロソフトのWordや表計算ソフトのExcelなどが職場で必須ツールになったころが挙げられます。
それまで職場での文書作成は一太郎などのパソコンソフトも使われてはいたものの、まだパソコン自体が十分普及しておらず、ワードプロセッサーという専用機を使うほか、手書きも用いられていました。それらがWindows95の登場とパソコンの普及により一気にWordにとって代わられ、職場での文書作成スタイルが刷新されたのです。
表計算ソフトのExcelの導入は、さらにインパクトがありました。手書きよりもずっときれいな表やグラフが簡単に作成でき、計算もできでしまうので電卓やそろばんの出番は激減していきます。
また同じころ、それまでオフィスに一台程度しか置かれていなかったパソコンが社員一人につき一台貸与されるようになり、Eメールの普及が急速に進みました。そして、社内での情報共有は紙の回覧からEメール配信へと移っていきます。
このようにWord・Excel・Eメールの急速な普及は職場の仕事スタイルを根底から変え、各社は全社員がWord・Excel・Eメールの最低限の機能を使えるようにOA研修を施して学び直しを進めたのです。転職で仕事探しする際も、Word・Excel・Eメールを使うスキルは必須条件とされるようになりました。
当時といまとでは職場も労働市場も取り巻く環境が大きく変わっており、必要とされる知識や技能の性質が異なる面はあります。しかし、時代の変化によって仕事で必須となる知識や技能を刷新しなければならないという意味では、いまのDXやGX、AIなどが当時のWord・Excel・Eメールに相当するということなのだと思います。
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