なぜ、環境にも財布にも優しいのに「服のサブスク」は広がらないのか磯部孝のアパレル最前線(3/3 ページ)

» 2022年11月21日 06時00分 公開
[磯部孝ITmedia]
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 airClosetを利用した人たちの口コミを見てみると、「ファッションのサブスク」という新奇性への期待値の高さに必ずしも応えられていないようだ。そもそもファッションのサブスクそのものを体験した人が少なく、どのくらいの満足度が得られて、お得なのかさえ、なかなか見えてこないのも課題だ。

「ファッション×サブスク」の難しさ

 ファッション自体、いつ・何処で着るというオケージョンや、都心や郊外といった居住ロケーションに個人の好みがついてくるもの。個人のこだわり度合も千差万別なことから、ユーザーが事前に細かく自分の好みなどを伝えないと、決して「お好みの洋服が安価に自動的に送られてくる」サービスは実現できない点は、企業にとってなかなか難しい問題だ。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 セレクションへの信頼感を醸成するのも一つの手であり、airClosetではスタイリストからのアドバイスやセレクション・サービス機能もあるようだが、期待値のハードルを上げたことにより、送られてきた商品とのギャップによって、かえって満足度を毀損(きそん)してしまうことも考えられる。

 では、ファッションのサブスクというビジネスは、本当にもうからないのだろうか。airClosetの18年〜22年における新規獲得会員の年間平均成長率は37.9%と、ニーズがあることは間違いないといえそうだ。これは、同期間の売上高成長率(37.1%)と同規模である。新規獲得ができているうちに、いかに初期離脱者を減らし、サービスの継続を促せるかが、今後ビジネスを広げていくための鍵となってくるだろう。

 そのためには、現在提供しているサービスのセグメントを細かくして、ニーズを絞り込んでしまうか(貸衣装のようなイメージに近い)。あるいは、価格帯を少々上げてでも、映像や音楽のサブスクのように、「選び放題・借り放題」にまで振り切ってしまうか。こうした両極案くらいでないと、なかなかファッションのサブスクビジネスは成り立たないのかもしれない。

 この稿を走らせているうちに、エアークローゼットを巡る新たなニュースが飛び込んできた。住友商事との業務提携だ。住友商事は出資先にジュピターショップチャンネルが運営する「ショップチャンネル」がある。その顧客基盤の活用や国内外のネットワークを活用した提携ブランドの開拓など、さまざまな分野での事業開拓を進めるそうだ。

 住友商事という盤石な資本を持った企業との業務提携によってairClosetも、より中長期的な事業計画が組みやすい環境になったのではないか。しかし、新たな事業領域の可能性を探るより、まずは本業の再構築を最優先に取り組むことに期待したい。地球環境意識が高まりつつある現在だからこそ、ファッションのサブスクの可能性を大いに広げてもらいたいものである。

著者プロフィール

磯部孝(いそべ たかし/ファッションビジネス・コンサルタント)

磯部孝

1967年生まれ。1988年広島会計学院卒業後、ベビー製造卸メーカー、国内アパレル会社にて衣料品の企画、生産、営業の実務を経験。

2003年ココベイ株式会社にて、大手流通チェーンや、ブランド、商社、大手アパレルメーカー向けにコンサルティングを手掛ける。

2009年上海進出を機に上海ココベイの業務と兼任、国内外に業務を広げた。(上海ココベイは現在は閉鎖)

2020年ココベイ株式会社の代表取締役社長に就任。現在は、講談社のWebマガジン『マネー現代』などで特集記事などを執筆。


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