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ヤフーの「どこでも居住可能」制度はどうなった? 東京圏からの“脱出”を選択した社員の転居先人事担当者に聞く(2/4 ページ)

» 2022年11月28日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

「どこでも居住」の前にあった「どこでもオフィス」

 22年1月初旬、Zホールディングスの川邊健太郎社長は「どこでも居住」を取り上げたニュースを紹介しながら、自身のTwitterで「社員との対話やさまざまな調査を行った結果、『仕事のパフォーマンスに変化がない、あるいは向上した』という社員が9割であったので、ヤフーは社員の住む場所を国内で自由化することにしました。他方、オフィスの力も否定はしないので、たまの出勤に飛行機も使えるようにします」と投稿しました。

 では、この「どこでも居住制度」とはどんなものなのでしょうか。同制度の概要を見てみます(出所:プレスリリース

(1):居住地の選択肢を拡大

 22年4月1日より、日本国内であればどこでも居住可能。

(2):通勤手段の制限を撤廃

 22年4月1日より、特急や飛行機、高速バスでの出社も可能。

(3)交通費の片道上限を撤廃

 22年4月1日より、片道上限の6500円/日を撤廃

(4):「どこでもオフィス手当」の増額

 4月1日より、働く環境を整備するための「どこでもオフィス手当」を1000円増額し、毎月最大1万円の補助(どこでもオフィス手当5000円+通信費補助5000円)を支給

(5):希望者へのタブレット端末の貸与

 社員のさらなる生産性向上を目的として、希望する正社員に対し、業務用PCとは別に新たにタブレット端末を貸与

(6):懇親会費の補助

 コミュニケーションの活性化を目的に、社員間で行われる懇親会の飲食費用を、1人当たり5000円/月まで補助

 対象となるのは、「全国の正社員、契約社員、嘱託社員の約8000人」としています。

 このような概要を見ていると、ヤフーは、いきなり「どこでも居住」制度を始めたように見えます。「さすがIT企業はやることが大胆だ!」と思った人も多いようですが、実際には違います。

 取り組みの背景について、岸本雅樹氏(コーポレートグループ ピープルデベロップメント統括本部 ビジネスパートナーPD本部 本部長)に取材をしました。

 「ヤフーでは働き方と住む場所に関する制度を常にアップデートして、現在に至っています。

 実は、14年から『どこでもオフィス』という制度を導入していました。月2回までならば、会社以外のどこで働いてもいいというものでした。00年後半からスマホが出てきて、PC以外でネットに接続するケースも増えていたのですが、ヤフーとしてはスマホシフトが遅れていました。

 宮坂学氏(現在の東京都副知事)が社長になった時、これからヤフーはスマホ(スマートデバイス)にシフトしていこうという方針がだされました。だから、自分たちも会社のPCだけでなく、どこでも仕事をできなきゃいけないよね、という方向になったのです。それが、どこでもオフィスにつながっていったのです」

 「そしてもう一つの背景として、いつも同じ場所で、同じメンバーと仕事をしていると、いいアイデアがでないということもあります。当時の宮坂社長が、『どこでも働けるようにしようよ』と言い出したことを契機に、16年にどこでもオフィスは月に5回まで利用できるようになりました。それを20年に撤廃しました。結果的に回数制限もなくなり、従業員はいつ・どこで働いてもいいという環境になったのです」

 ヤフーはこうした一つひとつの取り組みを繰り返して、従業員が最大のパフォーマンスを発揮できるためには何が必要かを考えるクセづけが徹底されているのです。

どこで働いてもいいから「どこに住んでもいい」へ

 「どこで働いてもいい」と「どこに住んでもいい」は、その意味合いが異なります。

 ヤフーはメーカーではないので、在庫や工場設備がなく、働き方が縛られにくいという特徴があります。

 しかし、そんなヤフーもコロナ前までは好きなところで働けるのは月に5日程度でした。大前提として、「会社に出社して働くこと」があったからです。

 それが、コロナ禍で出社制限を受けたことで、出社せずに仕事をすることが日常になりました。

 以前から同社ではビジネスチャットツール「Slack」などを日常利用していたため、オフィスに出社せずに仕事をし続けることに対して、そこまでの違和感はなかったようです。

 「ヤフーのコンセプトは、『社員が自分の好きな働き方を選べる』です。リアルなオフィスという場所がマッチする社員もいれば、完全にオンラインで働くほうが生産性が上がる社員もいます。オフィスで仕事をしたいという時に、オンラインではなくリアルなオフィスを柔軟に選べるというのが大事だと思っています。ですからヤフーでは100%オンラインを推奨しているわけではないのです」(岸本氏)

 次の図によると、全員共通の空間はオンラインと設定しています。働く場所はどこでもいいよということですが、自宅やカフェ、旅行先と並んでオフィスもあるのです。各自の事情に合わせて、最も生産性の上がる働き方を選べる=選択肢が多いことが、ヤフーのどこでもオフィス、どこでも居住の最大のメリットだと言えます。

ヤフーの考える働く場(出所:ヤフー公式Webサイト)

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